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痛み分け
25




「…お前に嘘は吐けない、か…」

深い溜息を吐き出して、虎徹はもう一度バーナビーを見遣った。

「確かにあの日、俺はお前の傷を治した…」

そう。
お前の両親に救われた俺は、アントニオたちとこの店を経営することが決まって。
あの日の夜にその話をする為に、お前の両親の元へと向かっていたんだ。

虎徹は自分なりの正装で身を包み、バーナビーのご両親にネクストとして隠れて生活する場所、仕事を見付けたことを報告するために彼らの家へと向かっていた。
自分を本当の息子のように可愛がり、そして色々な世話をしてくれたブルックス夫妻に、きちんと生きていくと決めた姿を見てもらいたいと虎徹は緊張した面持ちだった。
そうして虎徹はブルックス家へと辿り着くと、深呼吸して大きな扉の横にあったインターフォンを押したのだ。

「俺もそのときはまだ異変に気付いていなかったんだ」

何度もインターフォンを鳴らした。
しかし出て来くる様子のない夫妻に不思議に思った虎徹はドアノブに手を伸ばして、ゆっくりと回した。
ガチャリという音と共に開かれた扉に虎徹は首を傾げた。
おかしい。虎徹は疑問を抱いたままご両親の名前を呼んだのだ。

「何度呼んでも返事がなくてさ。心配になった俺は申し訳ないと思いながらも家に上がって、夫妻を捜した」

そうして虎徹は初めて異変に気付いたのだ。

「何か焦げる臭いがして、俺はリビングに向かったんだ。そこで倒れているご両親と、バニー…お前を見付けた…」

虎徹は夫妻に走り寄り近付くと、彼らの死を確認して両膝を付いて茫然とした。

「俺が来たときにはもうお前の両親は事切れていて、俺はまた大切なものを失ったんだと絶望したんだ…」

赤々と燃え盛る炎の中、途方に暮れて。何もかも忘れて虎徹は放心していた。
そのとき、片隅で放り出された白い小さな手と横たわる身体を見付けて虎徹は我に返り、その手の存在へと駆け寄った。
ブルックス夫妻の子供、バーナビー。
あの日、怪我を移し替えた子供だった。
虎徹は咄嗟に子供を抱き上げて、彼が血塗れだということに気付いた。
慌てた口元に手を当てて息をしているかどうか確認する。
か細い吐息が手の平に温かさを伝えて、虎徹は子供を横たわらせその左胸に手を当てた。
無我夢中だった。

「俺も気が動転しててさ。自分の能力の代償を忘れてたんだ」
「…代償…?」
「ああ…」

自分の失態に気付いた虎徹は、子供を出来るだけ炎から遠ざけて、消防車と救急車を呼ぼうと電話を探して。

「…俺はそこで、黒い影を見たんだ」

人影に見えたそれを、虎徹はきちんと捉えるために追いかけた。
しかし怪我をした身での追跡は成功せず、派手な井出立ちをした男がこの家に現れたことによって虎徹はリブルックス夫妻とバーナビーから離れて身を隠すこととなったのだ。

(…ネイサンか)
「…俺は、お前が無事保護されるのを確認して、その場を後にしたんだ」

そうして暫く、その男とバーナビーが普通の生活を送っていることを知って、虎徹は彼の両親を殺した人物を捜した。
しかし自分が見たのはただの人影で、結局手掛かりは何も見付からなかった。

「そうこうしているうちに政府に追われてるユーリやイワンたちと出会って、俺はネクストを助ける道を選んだんだ」

ユーリと共に、自分たちの正義を掲げて。
それが正しいと、それが恩返しだと、それが罪滅ぼしだと。

「…本当は、お前にこんな話をするつもりはなかったんだけどな…」

虎徹はそう苦笑を漏らして肩を竦めた。

「どうして隠そうなんてし……」
『…ない、…わ…っ!』
「……?」

店の外で誰かの話声が聞こえてバーナビーは言いかけた言葉を呑み込んだ。
虎徹もその声が耳に届いたのか、店の扉へと視線を向けた。




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あきゅろす。
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