痛み分け 22 人混みを暫く避けて歩くとパン屋と雑貨屋の調度真ん中あたりで虎徹は立ち止まった。 バーナビーに離れてくれと小声で言うと、彼はキョロキョロと周囲を見回して、そしてパン屋と雑貨屋の中間の壁へと手を伸ばした。 何かを確認するような動作をしている虎徹から手を離して、バーナビーは何をしているんですかと声を掛けようと口を開く。 しかし、その言葉が口を出るよりも先に振り返った虎徹が、手を上下に振ってバーナビーを呼び寄せた。 バーナビーはそんな虎徹の姿に首を傾げながらも歩み寄った。 「…どうしたんです…」 か?という言葉は彼に引き寄せられたことで声にならなかった。 バーナビーは虎徹に思い切り引き寄せられたかと思うと、壁に向かって力一杯押し付けられた。 「…ッ!?」 バーナビーは咄嗟に受け身の態勢をとって目を瞑った。 しかし壁にぶつかる衝撃や痛みは身体に訪れず、彼は恐る恐るといった様子でそっと瞼を開いた。 「…これは…」 そこには壁はなく、細い道が先に続いている。 バーナビーは後ろが気になり振り返ってみた。 そこには虎徹とパン屋と雑貨屋の壁が存在していた。 「ここの路地は普段はパン屋と雑貨屋の壁で通れないんだが、ネクストの能力で通れるようにしてもらってるんだ」 「……」 バーナビーはまさか僕で通れるかどうかを確認したのでは、という疑問に駆られ何か嫌味を言おうと口を開いた。 しかし、路地裏の細い道を先に先にと進んで行く虎徹の姿に、バーナビーはタイミングを失くした。 溜息を吐き出して嫌味を口にすることなく虎徹のその後ろ姿を追い駆けた。 リーチの長いバーナビーは直ぐに虎徹の足のスピードに追いつく。 「…こんな能力もあるんですね」 「ああ。馬鹿みたいに体が堅いのとか、空気中の酸素を凍らせたり出来るのとか、色んな能力があるんだぞ。これは別の空間を持ってきてスペースを作る能力だっけか?」 詳しいことは俺もよくわかんねぇけど。 虎徹はそう返して、バーナビーにあそこのお店だと、いかにもアンティークなものが置いてありそうなお洒落なお店を指差して言った。 「ここの店なら俺の知り合いのネクストしか居ないし、誰にも邪魔されないから」 虎徹はオープンと書かれた札を見て、年季の入った扉を開いた。 カランカランとベルの音が鳴って、虎徹はバーナビーに促されそのまま中へと入った。 虎徹も後へと続き、片手を上げてお店の主に声を掛ける。 カウンターに居たガタイの男はいらっしゃいと挨拶すると虎徹の姿を捉えて、目を見開いた。 「お前…虎徹じゃないか!久しぶりだな。最近音沙汰なしで心配していたんだぞ」 「ああ。ちゃっと仕事が忙しくて……」 「虎徹さんッ!!」 虎徹の言葉を遮る声が聞こえて、カウンターの隣の扉が大きく開かれる。 扉の奥から飛び出してきたのは金色の髪の、青年へと成長し始めたばかりの人物で、虎徹はそんな彼の姿を見て元気だなと頬を緩めて小さく笑った。 「おう、イワン。久しぶりだな」 「虎徹さん!来るなら電話して下さいってあれほど言ったじゃないですかっ。…しかもそちらの人、ネクストじゃないでしょう」 イワン、と虎徹に呼ばれた青年は怖々といった、しかし睨みつけるような形でバーナビーの姿を見詰めた。 バーナビーはイワンの視線を痛いほどに感じて、そちらを見遣る。しかし彼と目が合ったかと思えば直ぐに逸らされてしまった。 「すまんすまん。急遽こっちに来る嵌めになっちまったんだ。だから勘弁してくれよ、な?」 虎徹はそう答えて笑うと、イワンの頭を撫でぐしゃぐしゃと髪を乱した。 「こ、虎徹さんッ!」 顔を真っ赤にさせ恨めし気な表情を浮かべるイワンから手を離して、虎徹はイワンとガタイのいい男に視線を遣ると、バーナビーへと向き直った。 [*前へ][次へ#] |