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痛み分け
21



待ち合わせに選んだカフェテリアへ先に着いていた虎徹は金の髪と緑の瞳が印象的な青年、バーナビーを見付けて右手を上げ軽く振った。
目的の人物が手を振っているのを見付けて、バーナビーは人混みを掻き分けて虎徹の元へと足を速めた。

「…おじさん」
「よっ!昨日の今日でまさかバニーちゃんから連絡が来るなんて思ってなかったからちょっと驚いて早めに来ちまった」

にこにこと笑みを浮かべる虎徹の姿にバーナビーは呆れながら、早く着いてたなら店内で待っていて下さいよ、と言った。
虎徹はバーナビーに気付かれぬように背後に視線を巡らせて、一人であんなお洒落なカフェに入れるかと唇を尖らせて返した。

「…あ、バニーちゃん。髪に何か付いてるぜ?」
「…え?」

虎徹はバーナビーの腕を引き寄せて、彼の金色の少し癖のある柔らかな髪へと手を伸ばした。
虎徹の整った顔立ちが近付いて来るのに、バーナビーは反射的に瞳を細める。

「…おじさん、まだですか?」
「んー…、まっ、三人くらいか?」
「…は?」
「お前の後を付けて来て、こっちを窺ってる奴らの人数。…知り合いか?」

取れたぞ。
虎徹は大きな声でそう答えてバーナビーから離れ、彼の顔を覗き込んだ。
バーナビーはくしゃくしゃと自分の髪を梳いて、少し考えた後に行きますよと踵を返して歩き出した。

「え、あ…バニーちゃん。ちょっとちょっと…」

後ろから待ってくれという声が聞こえて、バーナビーは足を止め振り返った。
虎徹は左足を少し形でバーナビーを追いかけてくる。

「…足、酷くなってませんか?」
「あー…まぁ、えっと…。取り敢えず、手ぇ貸してくれる?」
「……?…わかりました」

相変わらず何を考えているのかさっぱり分からない虎徹に、バーナビーは肩を竦めながらも自分の手を貸そうと彼の腕に手を伸ばす。
しかし彼は自分の腕に到着するよりも先にバーナビーの色素の薄い手を掴んで自ら細い腰へと誘導した。
先程よりも更にお互いの身体が密着して、バーナビーは街の中で男の、しかも年上のおじさんの腰を支えてる自分の姿を想像していたたまれない気持ちになった。

「おじさん、何もここまで密着しなくても良いんじゃ…」
「ああ、悪い悪い。少し辛抱してくれよ。こっちの方が相手に気付かれずに小声で喋れるだろ?」

こっちの方が余計に怪しまれるのではないか、とバーナビーは嫌そうな顔を虎徹へと向けた。
しかし虎徹はそんなバーナビーの表情に気を留めることなく、右腰に下げたポーチから折り畳み式の杖を取り出して組み立て、地面を突いた。

「ちなみに足は酷くなってないからな。演技だ演技。相手が怪我人で足を引き摺ってるとなれば相手は油断して逃げやすくなるだろ?」
「…はぁ、そんなものですか?」
「ああ。ちなみに何度かユーリと試してるから、保証はあるぞ」

どんな保証ですか、とバーナビーは呟いて、直ぐ隣に居る虎徹を見遣った。
楽しそうな表情を浮かべる虎徹に、心の中で何がそんなに面白いのかとぼやいてバーナビーは小さく息を吐いた。
勿論、相手には聞こえるようにだ。

「なんだよバニー…、辛気臭いな。ほら、あいつらを撒くぞ」

虎徹はもう一度行き交う人を目で確認して杖を付きながら歩き出した。
バーナビーはそんな虎徹に渋々ながらも従って、彼の細い腰へ当てた手に少しだけ力を加えた。

「…どこへ行くつもりなんですか?」

虎徹がほんの少し。といっても殆ど密着している状態なのだが。リードして歩くのに、バーナビーは小さな声で彼に訊ねた。

「俺の知り合いが経営しているカフェがこの近くにあるんだ。あいつらみたいなのを撒くには調度良くてな、いつも使わせて貰ってるんだ」
「…と、いうことはつまり…」
「ああ。能力者、ネクストがやってる店さ」

虎徹はそう小さく頷いて、知り合いのネクストが経営しているというお店に足を向け歩き出した。





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