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痛み分け
20



「大丈夫か?どこか怪我したのか…?」

眩しい光の中で、声変りを終えたばかりの青年が転んだ幼子の元へと駆けて来て、目の前に立ち止まった。

「あーあ…、膝…擦りむいているな…」

泣きじゃくる幼子の前でしゃがみ込んだ青年は、幼子の怪我をした方の足に右手を触れさせて、良く知った魔法の呪文を唱えた。

「いたいの、いたいの、飛んで行け」

青年が紡いだ呪文の通り、ズキズキと痛んだ膝小僧は痛みを失くし、その足は転ぶ前に状態に戻っていた。
幼子は痛くないと目をぱちぱちと瞬かせて、自分の足と、青年の顔を交互に見詰めた。

「ほら、もう大丈夫だ」

青年はそう言って笑い、幼子のクセのある髪を愛おしそうに撫でた。
幼子は青年の少し大きな傷だらけの、優しい手が心地良くて、ありがとうと顔を綻ばせて笑う。
青年は幼子の笑顔に少し驚いて目を開き、そして瞳を細めてもう一度笑った。
金色の瞳がきらきらと宝石のように輝いて、幼子は青年のその姿がとても綺麗だと思った。





バーナビーは目を覚ました。
穏やかで懐かしい、そんな夢を見ていたせいだろうか、中々意識が覚醒しなかった。
何度目かの瞬きで漸くはっきりしてきた意識に、バーナビーは視界もはっきりさせようとベットの脇の棚に置いた眼鏡へと手を伸ばした。
クリアになった視界の中に時計を捉えて時間を確認する。時刻は深夜の二時過ぎ。虎徹たちと別れて八時間は経過している。
いつもなら目が覚めれば直ぐにパソコンの前へと直行するのだが、バーナビーはそうはせずにベットへと横たわったまま天井をぼんやりと見詰めていた。

バーナビーは穏やかで幸せだったときに現れた、優しい手と金の瞳の青年を思い出して瞳を閉じた。
大丈夫か、と問う心配を含んだ声色。困ったように笑う青年の表情。ずっとずっと昔に忘れ去られてしまった、過去の記憶。
青年とはほんの一瞬の出会いだったけれど、バーナビーはたった一度の出会いで彼を好きになったことを思い出し、口元を緩めた。
彼はそう、お伽噺に出てくるような魔法使いなんだとバーナビーは両親に熱く語り、身振り手振りで何度もその話をしたんだ。
今思えば彼はネクストで、ネイサンのように両親に恩がある人間だったのだろう。
バーナビーは自らの手で自分の髪をそっと撫で付けた。
そんな無意識の動作で不意にバーナビーは男の姿を思い出して、勢いよくベットから起き上がった。

『よ、大丈夫か…?』
「…あ…、」

青年の笑う姿があの男の姿と重なってバーナビーは声を漏らした。
初めて出会ったとき、怪我を手当てしてくれたときに感じた何かは、懐かしさだったのかとバーナビーは気付いて深い溜息を漏らした。

「…あの人が…」

両親に恩があると言っていたのだから、自分と会っていても何も可笑しくないことだと考えた。
そして、彼のネクストとしての能力。
彼がどんな能力を持っているのか聞かなかったのは、ユーリという男以上の危険な能力ではないと何となく理解していたのもあるが、無意識のうちで彼がどんな能力を持っているのかなのか知っていたからなのだ。

「おじさんは…癒す能力を持つ、ネクスト…」

ズキリと胸が痛んで、バーナビーは左胸を押さえた。
自分で呟いた言葉にまさかと意識を巡らせる。

「癒す…ネクストだって…?」

チラつく赤。男の嘲笑とタトゥー。撃たれた左胸の穴。
それを癒したのは。

バーナビーはベットサイドの棚に置いた携帯電話を手に取り、おじさんと登録されたアドレスを表示した。
つい先程登録されたばかりの番号を見詰めてバーナビーは息を呑み込んだ。
そして、陽が昇り。
人々が活動を始める時間に、バーナビーは番号の持ち主である男へと電話を掛けることとなる。




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あきゅろす。
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