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痛み分け
16



バスルームから出てきたバーナビーは、虎徹の置いていったバスタオルで身体を拭うと新品であろう服に手を伸ばした。
虎徹のものかユーリのものかは分からないが、彼らの服のサイズが自分の身体に合うわけもなく、バーナビーは肩を竦めて取り敢えず自分の服を広げた。
ジャケットの中に来ていた黒のシャツは無事だったが、ズボンは悲惨な状態でどうしようもなかった。
バーナビーは濡れたタオルで簡単に拭ってみたが意味もなく、仕方がないと呟いてその汚れたズボンに足を通した。
血塗れのジャケットは丁寧に折り畳んで小脇に抱えると、バーナビーは虎徹とユーリが居るだろう部屋へと戻った。

「シャワー、ありがとうございます」
「おう。…ってアレ?服、置いといただろ?」

着なかったのかと問われて、バーナビーはサイズが合いませんよと苦笑しながら答えた。

バーナビーの言葉に最近の若者は逞しい身体してるからねぇ、と彼は口にして笑った。

「ユーリ、…さんは?」

ふと銀髪の男の姿が見えないことに気付き、バーナビーは虎徹に訊ねた。

「ああ。あいつは後始末中」

以前にもそんな会話をしたなと思っていると、虎徹はバーナビーの名前を呼んでちょいちょいと手招きをした。
バーナビーは虎徹の元へと歩み寄ると、座れと促された。
しかしバーナビーは少し距離を取って彼の右側に座った。

「あー…もう、こういうときは素直に言うこと聞くだろ!?何なの、最近の若者ってみんなこうなの…?」

ソファーを弱々しく叩いて溜息を吐く虎徹に、バーナビーはあなたのことは信用できませんからと言った。

「…ったく、しゃーねぇな…」

虎徹はバーナビーの台詞に頭をガシガシと掻くと、ソファーの上で膝立ちして彼の傍まで寄った。
バーナビーはそんな彼の姿を横目で見詰める。

「腕だせ、腕」

虎徹が手を差し伸べる。
バーナビーは首を傾げて左手を差し出した。

「こっちじゃない、利き腕の方だ」

ほら、と急かす虎徹に、バーナビーは渋々といった動きで身体を捻り。右腕を上げた。

「…ったく、反対側に座ればそんな体制にならなくて良かったのによ」

折角スペース開けて座ったのにとぼやく虎徹の言葉を無視して、バーナビーは彼に差し出した自分の右腕を見下ろしていた。
ぱっくりと横に開いた傷口は深く、そこから血が溢れている。
じっと自分の傷口を見詰めるバーナビーに虎徹は気付いてなかったのかとバーナビーに訊ねた。
バーナビーはその問いにウロボロスのことが頭に一杯だったようですね、とまるで他人の身体を見るように自分の身体を見詰めていた。
そんなバーナビーの姿に虎徹は肩を竦めて、その腕の傷の上に手を滑らせた。

(あ、しまった…)

ピタリと手を止めて、虎徹はゆるりとソファーから立ち上がった。
バーナビーはそんな虎徹よりも自分の怪我が気になっているのか、彼に気を留めはしなかった。
虎徹はほっと息を吐き出して救急箱が置いてある棚へと向かった。
ここにユーリが居なくて良かったと胸を撫で下ろした虎徹は、お目当てのものを手に入れてソファーへと戻った。
バーナビーの隣にもう一度腰を下ろし、救急箱を開けて中身を漁る。
消毒液、ガーゼなど怪我を手当てするのに必要なものを取り出して、バーナビーの腕を取った。

「ちょっと染みるからな」

虎徹はバーナビーに優しくそう告げて、消毒液を傷口に塗った。
ピリッと走る痛みに一瞬だけ表情を強張らせて、バーナビーは小さく息を吐き出した。
虎徹は傷口を見てこれなら縫わなくて大丈夫だなと呟くと、慣れた手付きでガーゼを当てて包帯を巻いた。

「…慣れてますね」
「ああ。よく、怪我をするからな」

虎徹はそう笑って包帯を巻き終えたバーナビーの腕から自分の手を離した。





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