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痛み分け
15




虎徹たちの隠れ家へと辿り着いたバーナビーは、その血塗れをどうにかして来いと虎徹に押されバスルームへと追いやられた。
バーナビーはバスルームにある洗面所の鏡の前に立って、確かに酷い有様だと自分の姿を見詰めて思った。
赤のジャケットは目立たないが、頬や髪、ズボンにこびり付いた鉄臭い血液にバーナビーは顔を顰めた。
取り敢えず眼鏡に付着した赤を水で簡単に洗い流して、バーナビーは服を脱ぎ始めた。

シャワーのコックを捻り、勢いよく水が流れ落ちるのを確認して浴室を見回した。
シャンプーやボディーソープ以外にも、髭剃りと歯ブラシを見付けてバーナビーはどうしてこんなものがと首を傾げた。
暫くするとシャワーの水はお湯へと変わって、バーナビーは自分好みの熱さになったシャワーを浴びた。
汗と血の付いた身体を流す熱いシャワーはとても心地良く、バーナビーは自然と安堵の吐息を漏らした。

「なぁ、バーナビー」

ガラス越しに虎徹の低音が聞こえて、バーナビーはなんですかと口を開き後ろを振り返った。
しかしそれよりも先に無遠慮に扉が開いて、中を覗き込んでくる虎徹の姿にバーナビーはぎょっと目を見開く。

「シャンプーの場所とかわか…ぶふっ!!!」

バーナビーは咄嗟にシャワーを掴んで虎徹の顔へと向けた。
勢いあるお湯を掛けられた虎徹は驚いて開いた扉を閉めた。
顔面に直撃したせいか鼻にお湯が入って、扉越しに虎徹の呻き声がバーナビーの耳に届いた。

「人が入ってるのにバスルームに顔を出すなんて常識ないんですかっ!?」
「いって…っ、…別に男同士なんだから問題ないだろっ?」

生娘じゃあるまいし、と虎徹がぼやくと、バーナビーはバスルームから顔だけを出した。
眼鏡をかけながら彼は呆れた様子で虎徹の姿を見詰めた。

「男同士でもこっちは裸なんですよ。無防備な状態なんです、わかります?」
「あー…はいはい、悪かった悪かった。常識なくて」

虎徹は唇を尖らせ、濡れた髪を掻き上げた。
その仕草が子供っぽくて、バーナビーは肩を竦めた。

「それより、何か用ですか?」
「ああ。シャンプーの場所とかわかんないだろうと思って」

あそこの緑のがシャンプー、あそこの赤いのがボディーソープ。と説明する虎徹にバーナビーは首を傾げた。
バーナビーのそんな様子に虎徹は目が悪いんだろと呟いた。
その言葉にバーナビーは驚いて目を丸くした。
虎徹は違ったのかと訊ねて、バーナビーはいえ、とゆるやかに首を振った。

「目は確かにそんなに良いとは言えませんが、そこまで酷くありませんよ」
「そうなのか」
「ええ、そうです。…だから、もう顔出さないで下さい」

バーナビーはそう素っ気なく虎徹に告げると、さっさと扉を閉めてしまった。
虎徹は可愛くないなと頬を膨らませて、バスタオルと服置いとくからなとバーナビーに声を掛けると部屋を出ていった。

「……」

バーナビーは扉を開いたせいで冷え始めたバスルームの中で、左胸を押さえたまま立ち尽くしていた。
両親やネイサン以外から、優しさ、というものを向けられることに慣れていなかったバーナビーは、自分の揺らぐ心に、髪から滴り落ちる雫を見て舌打ちした。
こんなの、自分らしくない。
いつもなら揺らぐはずのない感情が、ぐらぐらと揺らぎ始めている。

「…違う。こんなのは、ただの…」

同情なのだ。
両親への恩返しなのだ。
そう、ただの自己満足なんだとバーナビーは自分に言い聞かせた。
絆されてはいけない。
出会って間もない人間、しかもネクストに。

「…僕は、」

独りなんだと。
ウロボロスに復讐する以外の感情は何も要らないんだと、バーナビーは胸を押さえたまま何度も何度も自分に言い聞かせるように呟いた。




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