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痛み分け
14





そこには銀髪の男が立っていた。
ユーリだ。
バーナビーは心の中で男の名前を忌々しく呟くと、ユーリを睨み付けた。

「おや、君は…」

男はワザとらしく目を細めると、バーナビーを見詰めてクスリと笑った。
銀の髪が炎の赤を吸収し、それが揺らぐたび煌々と輝く。バーナビーはそんなユーリの姿が恐ろしくてたまらなかった。
バーナビーはユーリに銃口を向けようと手を伸ばすが、その手の中に銃は存在しなかったため叶わなかった。
先程の爆発で身体が吹き飛ばされたとき、その拍子でどこかに落としてしまったようだ。
バーナビーは自分が丸腰だと気付いて、ごくりと唾液を呑み込んだ。

「…大事な武器を落としたり、失くしたり、君はとても忙しいですね」

ユーリは小馬鹿にしたように口元を吊り上げると、バーナビーの腕を引いて立ち上がらせた。

「いつまで呑気に座っているんです?さっさと立ちなさい」
「…やっぱり、ウロボロスだったのか……」

バーナビーは自分の腕を掴むユーリの手を払い除けると、男と距離を取る為に後ろへ下がった。
ユーリはそんなバーナビーの行動が面白いのか頬を緩めたままじっと彼の姿を見詰めている。

「まさか。私は彼以外の誰からも指図は受けません。ましてやウロボロスなど」

ユーリは肩を竦めてバーナビーを見遣った。
そして、君は疑心暗鬼に満ちた愚かな目をしていると彼にそう言った。

「まぁ、信じる信じないは君の自由だ。私と彼は無実な能力者を救いに来た。ただ、それだけですよ」

ユーリはバーナビーから視線を外して空へと上がる炎を見詰めた。
不意にユーリの名を呼ぶ声が聞こえて、二人はそちらに視線を向ける。
バーナビーは目を細めて、その声の主の姿を捉えた。
緑色の深いシャツと白地のベスト、そして帽子を目深に被っている。彼はユーリと共に行動している、虎徹だ。
虎徹は左足を庇いながら走り寄ると、二人の前で立ち止まった。
そしてユーリと、バーナビーの姿を交互に見遣った。

「…バーナビー、か…」

虎徹はピクリと眉を動かして、空を仰いだ。
そして愛用のハンチング帽を脱ぐと、バーナビーの首を腕で引き寄せ、少々乱暴にだが帽子を被せた。
虎徹の急な行動に身構えする暇さえなかったバーナビーは為すがまま帽子を被せられて、何をするんですかと大声を上げた。
そんなバーナビーに、予備の帽子を被り直した虎徹は、落ち着いた様子でテレビに映るだろうと空を見上げて呟いた。
バーナビーは彼の言葉を理解するべく、同じように空を見上げる。
そこにはテレビ用のヘリコプターが現場の上を行ったり来たりと何度も往復しており、リポーターらしき姿が炎上した輸送車を見詰めて何か話をしているように見えた。

「犯罪者になるのはごめんだろ?」

虎徹はバーナビーにそう聞くと、彼は小さく頷き、帽子を目深に被り直した。
その姿に虎徹は笑みを浮かべるとユーリへと視線を向けた。

「こっちは無事逃がせた。そっちは?」
「こちらも問題はありません」

彼以外はね、と嫌味たらしく告げたユーリに、虎徹はそうかと頷くとバーナビーの方へと向いた。

「バーナビー、俺たちはやることが終わったからここから逃げる。だからお前も一緒に付いて来い」
「あなたたちと一緒に…?」
「ああ。その方が捕まる確率は低い。…ウロボロスを探る身としては警察やテレビや政府に厄介になるのはまずいんじゃないか」

ここでもし捕まれば、警察に自分が行っていたハッキングなど全てバレるだろう。そうなったとき、懲役などという枷を付けられてしまえばウロボロスを追えなくなってしまう。
虎徹の意見は尤もだった。
バーナビーは小さく息を吐いてわかりましたと答え、彼の指示に従うことにした。
虎徹はバーナビーのその言葉を聞いてほっと安堵の息を漏らした。

「お前が賢くて助かった。…よし、そうと決まればさっさと行くぞ」

虎徹はあっちだ、と指を差しながら走り出した。
バーナビーはそんな彼の背中を見詰めて、そしてその細い背中を追いかけた。





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