痛み分け
13
バーナビーはハンドルを指先で叩きながら、前の輸送車を見詰め、そして周囲に気を配った。
一体どんな能力のネクストが現れるのか、どこから現れるのか。
輸送車から離れずに神経を尖らせていたバーナビーは予定通り高速に乗ったのを確認して、ハンドルを回した。バーナビーも車を高速へと乗せて、出来るだけ離れないよう輸送車に意識を向ける。
暫く順調に走っていた輸送車だったが、バーナビーはふと何か違和感を感じてブレーキを踏んで車から離れた。
その瞬間、輸送車が大きな爆発音と共に煙を上げ、別の車体を巻き込みと高速道路の壁に衝突した。
輸送車はごうごうと赤い炎を上げ燃えはじめる。
バーナビーは車を高速道路の隅に乱暴に止めると、車から飛び降りて炎上する輸送車へと視線を向けた。
輸送車へと入って行く黒い物陰を捉えたバーナビーは勢いよく走り出した。
しかし、炎は彼の行く手を阻み、赤々と道路を伝い燃え広がっていく。
「……ッ」
バーナビーは舌打ちをして燃え盛る炎の前で立ち止まった。
だが、ここでウロボロスを逃がすわけにはいかないとバーナビーは大きく深呼吸をして、そして赤々と燃える炎の中に飛び込んだ。
燃え盛る炎の中、輸送車まで身を丸めて走ったバーナビーは、輸送車の中が燃えていないことに気付いて中へと入り込んだ。
そして、そこに立つ二人の男を視界に捉えて、バーナビーは左胸を押さえた。
一人は全身黒に身を包み、フードで表情が覆い隠されて表情は窺えない。
もう一人はこの輸送車で監獄行きの、ウロボロスのタトゥーをした犯罪者だ。
バーナビーはジャケット銃を取り出して安全装置を外し、フードの男の方へ突き付けた。
男はバーナビーの存在などどうでもいいのか窺う様子もなく、ただ犯罪者の男に何言かを告げている。
「…ウロボロスだなッ!」
身に纏っている衣装のせいでフードの男からタトゥーは見付けられなかった。
しかし、バーナビーは直感的にこの男が自分の両親を殺した男だと、そう思った。
赤々と燃え盛る炎の中、脳裏にチラつく男の影と、フードの男の姿が重なって、バーナビーは引き金を引いた。
重い金属のそれは大きな反動をバーナビーの身体に与え、フードの男の背中を貫く。
その筈だった。
「…ぐッ…!!」
反転する視界と身体に走った痛みと圧迫感に、バーナビーは肺を押し潰されて呻き声を漏らした。
車内の座席に叩き付けられたバーナビーの身体はぐらりと揺らぎ、その場へと崩れ落ちる。
「……ッ」
咄嗟に片膝を付き、体制だけは何とか保つことが出来たバーナビーは目の前に立つ犯罪者のウロボロスに息を呑み込んだ。
「我々は選ばれし存在、ネクスト、ウロボロス」
バーナビーは男を視界に捉えたままフードの男の姿を捜した。
しかし、車内に残るのは自分とこの男のみでバーナビーは咄嗟に男に掴みかかった。
「あの男は何者なんだッ!?」
バーナビーの気迫に、しかし男は気にする様子もなくただ不気味な笑みを浮かべている。
「ウロボロスは一体何なんだ!…お前らは…ッ!」
「全ては彼の存在たる世界のために」
男は聞く耳を持たずにそう語り、歯をむき出して笑う。そして自分の腕を持ち上げ指先を頭へと突き付けた。
バーナビーは危険を察知して男から離れた。嫌な予感がする。
「おい、やめろ…止めるんだ…」
バーナビーは大声を上げて男に制止を求めた。
しかし男は笑みを向けたまま恐れを抱くことなく、バンッと声を張り上げた。
男の声と共に真っ赤に染まる視界にバーナビーは腕で顔を覆った。
飛び散る生温かいものが頬や手に付着して、バーナビーは気持ち悪さに吐きそうになった。
「…くそ…っ」
男の鮮血で塗れたバーナビーは右手の甲で頬の血を拭い、輸送車から急いで出た。
瞬間、輸送車が耐えられなくなったのか大きな爆発を起こし、バーナビーはその風圧に吹き飛ばされて地面を転がった。
「……ッ……」
節々を強打して蹲るバーナビーの姿を黒い影が覆う。
バーナビーは痛みに唇を歪めたまま、影を作る存在が何なのかと視線を上げた。
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