痛み分け 12 「青い炎…、ユーリ・ペトロフ……」 車内の中でカチカチとキーボードを叩いて、バーナビーは銀髪の男について調べていた。 青い炎を操る能力というのは政府側からしても危険度の高いネクストで、バーナビーは政府の管理システムをハッキングして直ぐ、男の情報を得ることに成功した。 元々は裁判官だった彼は、逆恨みした犯罪者の男に襲われて青い炎の能力を目覚めさせる。 その能力は危険度がとても高く隔離対象として選ばれるが、その後、彼は自分を襲った男を殺して姿を消した。 政府から第一級犯罪者として多額の賞金を掛けられているが、未だ彼の消息を掴めたものはいない。 (…彼は、犯罪者なのか……) バーナビーはキーボードに指を滑らせて、次に鏑木・T・虎徹の名前を検索した。 検索中の文字が表示され、暫くしてエラーが表示される。 「エラー…?」 バーナビーは首を傾げて、そう言えば彼の能力を知らないことに気付いた。 「僕としたことが…」 溜息を吐き出してシートへと凭れかかったバーナビーは顎に手を添えて、しかし、と思考を巡らせた。 「…政府が調べ切れていない能力者なんて居るのか…?」 いや。確かに、ネクストとして能力が公にされていなければ政府に知られることもないだろう。それに、取引に使われるようなネクストならば隔離対象にされる能力ではないのかもしれない。 しかし。 バーナビーはサイドに置いてあったカバンから写真立てを取り出した。 色褪せて所々焦げ跡の付いたその写真は両親とバーナビーの姿が映された唯一の一枚だった。 「…父さんと母さんを知ってるのなら…」 必ず政府に関わった男だと、バーナビーはそう思った。 「…何か、知っているのか…?」 ウロボロスに関わるなと言った男の姿を思い浮かべて、自分が怒りに身を任せてしまったことをバーナビーは少し後悔した。 もう一度彼と接触してみようとも考えたが、ユーリという危険度の高いネクストの存在が気になって簡単には行動に移せない。 (…別の所からウロボロスを探ってみるか…しかし…有力な情報は……) バーナビーが思考を巡らせていたとき、パソコンに一通のメールが届いた。 宛先は情報屋の一人からで、バーナビーは知り合いのメールにすぐさまパソコンを操作して画面を開いた。 (…一週間後に、犯罪者を監獄へ輸送。そこに乗っているウロボロスの犯罪者を別のウロボロスが消すとの情報…) メールをスクロールすると輸送車の通るルートと時間が記されていた。 そして人物の画像を添付。 バーナビーは息を呑んで、慎重にその画像をスクロールした。 全身図の男の写真。男の顔にウロボロスのタトゥーが刻まれていたが、右手の甲にそのタトゥーは刻まれていなかった。 バーナビーは肩に入った力を緩めて、長い息を吐きだした。 目的の男、両親を殺した人物ではなかった。 「…でも、これで……」 ウロボロスに漸く辿り着け接触出来ると、バーナビーは左胸を押さえ緊張を解した。 脳裏にチラつく黒い影の嘲笑とウロボロスのタトゥーにやっと近付けるのだと思い、バーナビーは無意識に身体をぶるりと震わせた。 そうして一週間。 バーナビーは監獄への輸送のルートを頭の中に叩き込み、いつどこでウロボロスが犯人と接触するか、道筋や建物を念入りにチェックした。 乗っている人間の数と、その人間がネクストであるかどうかを政府の管理システムをハッキングして調べ上げてみると、輸送車に乗る全ての人間がネクストだということが発覚した。 全員が何かしら犯罪を犯したネクストで、その一人がウロボロスのタトゥーをした男だった。 人数は全員で五人。全て男。 バーナビーは五人ものネクストを全て一つの輸送車で監獄に送ろうと考えている政府に疑問を抱いたが、今はウロボロスのことだけ考えようとそう決めて、その思考を脳の片隅へと追い遣った。 そうしてバーナビーはシルバーの車へと乗り込むと、ルートを辿って来た監獄へと向かう輸送車の、その後ろに車を付けることが出来たのだ。 [*前へ][次へ#] |