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痛み分け
10




『あら、あなたから連絡してくれるなんて珍しいですわね』
「ああ。ちょっとな…」

虎徹は滅多に使うことのない黒い携帯の、たった一つ登録された番号を選択して電話を繋いだ。
3コール目で繋がった先に聞こえた声は、少女のそれで。虎徹は彼女の姿を思い浮かべて、ほっと息を吐いた。

『ボスに御用かしら?それなら…』
「いや、今日は仕事を回してほしいと思って。俺に出来る範囲で、デカイやつ」

少女は驚いた声色でもう一度珍しいですわ、と返してくる。
虎徹はそんな気分なんだよ、とあれこれ検索される前に言葉を紡いだ。

『今、あなたの隠れ家にを向かわせるところだったから、ついでに仕事も持たせますわ。指示は送った人間から聞いて下さいませ』
「わかった」
『それと、あなたもそろそろ戻って来ては如何です?私としてはころころ変わるあなたの居場所を能力で捜すのも面倒なので』
「おいおい、何言ってんだよ。俺は組織の人間じゃないの、フリーよフリー。雇われてるだけ。だから、戻る戻らないの話じゃないだろ?」
『あら、そんなこと言って。ボスが怒ってあなたのところに乗り込んでも私、知りませんからね』

彼女は拗ねた口調で、さっさと電話を切ってしまった。
ツーツーと、電子音が携帯越しに響いて、虎徹はガシガシと髪を掻き乱した。

「あー…でも、それはまずいか。…ユーリに別の隠れ家探してもらっとこう…」

銀髪の男の姿を思い描いて虎徹は一人、ポツリと呟いた。
そして、黒いシンプルな携帯を放り投げて、もう一つ。自分の愛用の携帯を取り出した。

薄い緑の新型の携帯。
こちらも殆ど使用されていないものだったが、虎徹は先程の携帯よりも慣れた手付きで操作し、目的の人物へと電話を繋げた。
勿論こちらも3コール以内で電話を出る几帳面な人物で、虎徹は唇を緩めてユーリ、と男の名前を呼んだ。

『何かありましたか?』

淡々とした声色の中にも少しの心配が含まれていて、虎徹は小さく笑った。

「いや。大丈夫だ…今はな」
『…どうしたんですか』
「んー…ちょっと新しい隠れ家、探して貰いたくて」
『…やはり、何かありましたね?あの、バーナビーという青年のせいですか』

ユーリと呼ばれた男の、声のトーンが低くなって、虎徹は咄嗟に違うと答えて首を振った。
電話越しでは意味がないというのに、虎徹は身振り手振りでユーリに説明する。

「さっき、電話があって組織の奴が来るってよ。で、まぁそれは別にいつものことだから良いんだけどよ。戻ってこないとボスが怒って乗り込んでくるぞって脅されてさ」

いや、脅しだったらまだ良いけど。本当だったら困るって。…あんな奴来るの嫌だろ?

そう涙目に語る虎徹の姿が目に見えたユーリは確かに、と呟き頷いた。

『わかりました、早急に用意しておきます。それで』
「ん?」
『彼はまだ居るんですか?こちらはもう終わったんですが…』

ユーリは仕事の後始末をとっくの昔に終わらせていたのだが、虎徹にバーナビーとの話が済むまで戻ってくるなと言い付けられていた。
虎徹は自分が彼にそう言い付けていたことを思い出して、ああと返事を返した。
ユーリは心の内でまた忘れていたなとぼやいて、肩を竦める。

「もう良いよ。あいつは帰ったからさ」

虎徹の声は残念そうな悲しそうな、そんな感情が込められていて、ユーリは片眉を上げた。

『…彼に何か言われたんですか?』

この使えないネクストめ!とか。
ユーリがそう言うと虎徹が大声を上げて笑った。
それが災いしてか、携帯越しに痛い痛いと呻く声も聞こえた。

「はは、は。…いやでも、使えない方があいつのためになると思ったんだけどな…。でも、結局駄目だったみたいだ」

虎徹はベットの上で身体を丸めると、シーツを頭まですっぽりと被り込んだ。

「なー…早く帰って来てくれ。頭痛いし、腹は痛いし…死にそう」

目を閉じて弱々しい声を吐き出す虎徹に、ユーリは溜息を吐きだした。

『能力を使ったのはあなたですから、自業自得です。取り敢えず私が帰ってくるまで、大人しくしていてください。わかりましたか?』
「あー…わかった。から、早く…」

虎徹は返答して、電話を切った。
そして携帯を握り締めたまま、ユーリが帰ってくるまでと瞳を閉じた。






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