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シザーハンズと愛の行方
バーテンと過去の記憶・後篇

残虐なシーンがあり、またオリジナルキャラも出てきます。
苦手な方は過去編は見ないようお願いいたします。






「なぁ、お前がやったのか?」

無意識に虎徹は言葉を口にしていた。
青年は目を見開いて、どうして。と言った。

「もうすぐ、アントニオが来る。もし、もしやったなら自首しろ。俺がアントニオに言ってやるから」
「僕はやってない!」
「本当に?本当なんだな!」
「あんたは、あんたも一緒なのか…」
「……?」
「信じてくれないのか」

青年は悲しみを湛えた眼差しを虎徹へと向けていた。
虎徹はその目を見て、胸が痛んだ。

「…俺は、お前を信じてるよ」

その言葉と共に、扉を開く音が鳴った。


少しずつ証拠が見つかり、浮かび上がった真実。
青年は男の元、非合法の仕事をして働いていた。
その仕事をクビになり、恨んで殺したのではないか、と法廷で検察官の男が言った。
青年は顔を伏せたまま、答えることはなかった。
青年の周囲で、組み立てられる真実に虎徹は声を上げようと立ち上がったが、アントニオに止められた。

「お前が言って、どうなる。あれは紛れもない真実だ」
「あいつは、自分から、自分の口から言ってないだろ?それが真実なんて。あいつの言い分も聞いてやらないと」
「言い分なんて聞いてどうなる?それに、あいつはさっきから答えてないだろ」

それが、答えじゃないのか。
アントニオにそう言われて、無理やり席に座らされた。
青年の意思のない裁判は終わり、人々は法廷から姿を消していく。
虎徹は人気の失せた法廷を、ただぼんやりと見詰めた。
ズキズキと胸が痛くて、苦しくて、虎徹は暫く立てなかった。

青年は、虎徹の部屋から姿を消した。
アントニオと、何人かの警察官と共に留置所へと去って行った。
虎徹は上官から青年の事件から外すと告げられた。
気を使ってか、はたまた懸念したからか。きっとアントニオが上官に言ったのだろう。

しかし、虎徹は何としても青年から本当の話を聞きたかった。
だから、彼はアントニオや他の警察官の目を掻い潜って青年に会いに行こうと決心した。




その日は、あの事件よりももっと寒くて、雪が降っていた。

クリスマスも間近に迫り、街はイルミネーションできらきらと輝いて綺麗だった。
外で子供たちは積もり始めた雪の中を駆け回り、大人は寒空の中そんな子供たちのプレゼントを買いに歩いている。
虎徹はそんな人ごみを避けるように路地裏を歩いて、青年の居る留置所へと向かっていた。
途中、大通りでお洒落な店に寄って、青年に似合いそうなマフラーを買った。

ふ、と見慣れた姿を捉えて、虎徹は立ち止まった。
しかし、目を凝らしたところでその姿はここにはない筈だ。
虎徹は眉間を押さえて、はぁ、と息を漏らした。
疲れているのかな、と声を漏らして、凍える身体を抱くように擦った。

その日は本当に寒くて。
吐き出す息は真っ白で、地面も真っ白で。
とても、赤が映えると思った。

(え?)

声を上げる間もなく、ぐらりと視界が傾いて崩れ落ちる。
押されて、倒れたのはわかる。
けれど、痛くて、熱くて、赤いソレが何かがわからない。
ただ自分のわき腹から溢れて、それを手で押さえた。
ぬるりとした感覚が気持ち悪い。

「あんたも、あいつらと一緒だ」

声が降り注いで、虎徹は反射的に顔を上げた。
そこには青年が居て、その手には鋭利なナイフが握られていた。

「おま…え、」
「信じる?何が信じるだ。結局、利用して、自分のエゴを押しつけるだけだ」

振り上げられたナイフが、虎徹の胸に突き刺さる。
何度も何度も振り下ろされたそれは油と血で染まり、虎徹のコートを朱色に染め上げた。


すまん。
虎徹は喉に詰まった血を吐き出しながら言った。
青年はその言葉に我に返ったのか、自分の行いに声を上げた。
血塗れになった虎徹の肩を揺らして、ごめんなさい、ごめんなさい。と青年は何度も呟いた。
虎徹は首を振ろうと、謝るなと言おうとした。
しかし、呼吸すら困難な口では声は出ず、身体は鉛を付けたように動かなくなった。
そのうち瞼も開いてられなくなり、視界がぼやけていった。
暗闇の中に沈んでいくように虎徹の意識が遠のいていく。


青年の、ごめんなさいだけが耳元に届いた。







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