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シザーハンズと愛の行方
バーテンと過去の記憶・前編


残虐なシーンがあり、またオリジナルキャラも出てきます。
(誰か青年の名前を考えて下さい…)
苦手な方は過去編は見ないようお願いいたします。






“あんたも、あいつらと一緒だよ”


あの日のことを忘れたことは一度もない。
あの事件は虎徹の心と身体に大きな傷跡を残した事件だった。

虎徹は以前、都会の街に住んでいた。
アントニオと共に、昔は警察官として働いており、忙しいながらも充実した日々を過ごしていた。

虎徹は正義感が人一倍強く、就任したばかりだというのに多くの事件に顔を突っ込んでは上官に叱られていた。
お陰で街には虎徹の名前を知らない人はいないというくらい、それくらい有名になった。 (名前だけで顔はあまり知られていなかったが、)

子供たちからはお節介警察官、という妙なあだ名まで頂いて、同期でいつも一緒に仕事をしていたアントニオは上官に何を言われるか、と毎日胃をキリキリとさせていた。
しかし、怒鳴られても説教されても気にすることない虎徹に、アントニオも時を重ねるごとにだんだんと開き直りを見せていた。



そして、三年前の冬のことだ。

虎徹とアントニオはその夜、街の巡回に当たっていた。
その夜はとても寒く、虎徹は背を丸めてアントニオを風よけに使いながら見回りをしていた。
アントニオはそんな虎徹のようすをいつものことだと特に気にすることなく、夜の街を進んでいた。
見回りも終わりに近づいたとき、路地裏から男の叫び声が二人の耳に届いた。
何だ、とアントニオが呟くよりも先に走り出した虎徹の姿に、呼びとめる間もなく。彼の後を追った。
暗がりの中、虎徹の後ろ姿を見失わないように懐中電灯で足元を照らしながら走った。

不意に虎徹が立ち止まりその場にしゃがみ込んだ。
大丈夫か?という声に虎徹の姿を照らしだせば、そこには顔色を真っ青にさせた青年の姿があった。
彼は尻もちをついたままある一点を凝視している。
虎徹は青年の肩を揺さぶるのをやめて、前方を見遣った。
アントニオは虎徹の眼が青年から別のものを捉えたのに気付き、彼の見詰める方向を照らしだした。



無残な光景だった。

地面や壁に広がった赤はまだ生々しい。
鮮血の散った壁に凭れ掛る男性の姿は首から下が何十ヶ所も切り刻まれており、アントニオは咄嗟に口元を覆った。
虎徹もその光景に眉を寄せ、放心した青年を引き摺り立たせた。

「おい、大丈夫か?」

虎徹が青年に事情を聞いている間に、アントニオは無線で応援を呼び、血まみれの男性の元へと歩み寄った。
刃物でめった刺しにされた死体を見て殺意の深さが手に取るようにわかる。
刺された場所から血と骨と臓物が露わになっていて、アントニオは耐えられずその場から離れた。

「大丈夫か?アントニオ」
「最悪だ。それよりそっちは?」
「余程ショックなのか、何も話してくれねぇよ」
「そうだな…」

アントニオは青年を見て、小さく頷いた。そして、もうすぐ応援が来ると虎徹に告げる。

虎徹は頷いて青年の肩を叩いた。青年はびくりと肩を震わせたが、虎徹は気にしなかった。

死んだ男は資産家だった。
それなりに有名な男で、虎徹も名前くらいは知っていた。
爽やかな資産家。
という人物像の裏には、酒にギャンブル、薬に人身売買と、あらゆる悪事が覆い隠されていた。

恨まれるようなことを沢山やっていたらしい。
誰も、その男には同情しなかった。

しかし、その男を殺した人間が街中にいるとなると話は別だった。
虎徹とアントニオはその資産家の近辺を、人間関係を探った。

死んだ男の目撃者だった青年は、虎徹が面倒を見ることとなった。

彼はその日、住み込みの仕事をクビになってしまい、帰る場所もなく路頭に迷っていた。
そのとき付近で叫び声が聞こえてきて、声の方へと興味本位で向かってしまったというわけだ。
虎徹はそんな青年を放っておける筈もなく、彼を暫く自宅へと上がらせた。
アントニオや他の警察官は反対したが、言いだしたら聞かない虎徹に渋々頷くしかなかった。


青年は、事件のこともあってか心を閉ざしていた。
しかし、虎徹のお節介により青年は徐々に心を開くようになった。
虎徹は青年を弟のように可愛がり、青年もまた虎徹を兄のように慕っていた。

そんな、ある日のことだった。
青年はポツリと、虎徹に言葉を零した。

「…虎徹さんは、僕を信じてくれますか?」
「ん?何だよ、急に」
「……」
「……?まぁ、良くわかんねぇけど、俺はお前のこと、信じてるさ」

青年の肩を叩いてそう言えば、彼は子供みたいに笑って、虎徹も釣られて笑いかけた。
この年頃の子は不安定だ。
昔、自分もそうやって不安になったことがあったな、と若かりし頃を懐かしむと、電話が鳴り響いた。
一体誰だ、と虎徹は呟いて年季の入った黒い電話の受話器を取った。

「もしもし、」
『虎徹か?』
「アントニオ。おう、どした?今日は非番だろ?」
『急に呼び出しを食らった。それよりお前、あいつと居るな?』
「んん?居るけど……」
『目を離すな。今すぐそっちに向かうから』
「は?一体どういう……」

一方的に電話が切られて、虎徹は首を傾げた。
そして、隣に居る青年を見詰める。
はっ、とアントニオのいう意味を、嫌な予感を無意識に感じて、虎徹は息を飲んだ。






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