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シザーハンズと愛の行方
鋏男と夜のバー


「最近機嫌がいいわね、どうしたの虎徹ちゃん」
「わかるー?最近さ、凶暴な兎ちゃんとちょっと仲良くなっちゃってさ」
「まー!虎徹ちゃんにも春が来たのかしら」
「はは。そんなんじゃないけどさ」

虎徹は機嫌よく鼻歌を歌いながら慣れた手つきで店出しの準備をする。
バー、ファイアーエンブレム。
店長は虎徹の昔馴染みの、オネエ系。名前はネイサン。
彼(彼女?)が独立で店を持つと言ったときに、たまたま職を探していた虎徹は彼女にやってみないかと声を掛けられて今に至る。
最初は鈍臭い虎徹も経験を重ねて、今はあまりヘマをやらかさない。それに、一部の人間から鈍臭くてもその人懐こさから人気があるとネイサンは思っている。

「で、どんな子なの?その兎ちゃんって」
「あー…うん、ほら、前にも言ってただろ」
「あの屋敷のシザーハンズの事ね」
「シザー…は?」

聞き慣れない言葉を聞いて虎徹は首を傾げる。
ネイサンはもう一度、シザーハンズよ、と言った。

「町の人間はみーんなそう呼んでるのよ。両手が鋏だから、シザーハンズ」
「なんかおっかない呼び名だな」
「実際おっかないでしょ。両の手が鋏なんて」
「そりゃーそうかもしれないけどさ。あいつ自身は良い奴なんだぜ?」
「虎徹ちゃんがそう思うならそうなんでしょうけど…。町の人間が皆、貴方の言うことに耳を傾けるわけないんだからね」

わかってるよ。と虎徹から小さな返答が返ってきて、ネイサンはほっと安堵する。

「でもさ、アイツもきっと普通に生活したいと思ってるはずなんだよ」
「だから、バーに飲みに来いっていったんでしょ」
「あ…、もしかして駄目?」
「駄目なんて言わないわよ。貴方のお友達なんでしょ。会ってみたいわ」

そう言ってウインクするネイサンに虎徹は、良かったと呟いた。

「でも、その子のために奥の席を指定してあげなさいよ。人の目って、それだけで相手を傷つけてしまうんだから、わかった?」
「わかったよ」

判れば宜しい、と笑うネイサンは時計を見てそろそろオープンにしましょうか。と、扉へと向かった。
扉に掛けられているCLOSEと書かれた札をOPENに変えれば、人の集まる賑やかなバーへとその姿は変貌する。
虎徹はゴミがないか最終確認をしてから、カウンターへと引っ込んだ。





日付も少しで変わる時間帯。
最後の客がネイサンと虎徹に挨拶して帰宅した頃、彼はそっと扉を開いた。

「いらっしゃーい、アラ、」
「お!バニーちゃん!」

いらっしゃい、と虎徹が声を掛けて、バーナビーは少し緊張した面持ちで小さく頷いた。

周囲を見回して、他に人間が居ないことを知ると緊張を緩めて、虎徹に促された席に座った。
ネイサンは透かさずOPENの札を引っ繰り返して、誰も来ないように扉の鍵を閉めた。

「ご注文は何にしましょうかしら?」
「そうですね…、ここのお勧めを、お願いします」
「畏まりました」

ネイサンはバーナビ―から注文を聞き、カウンターへ戻った。
果物と、シェーカーを取り出している。どうやらカクテルを作ってくれるようだ。

「どうだ?ここが俺の働いてる店。雰囲気は悪くないだろ」
「ええ。おじさんが働いてるわりには綺麗なお店です」

おじさん言うなと唇を尖らせる虎徹に、バーナビーは頬を緩めた。

「で、この店のオーナーのネイサン」
「虎徹ちゃんから良く話を聞いてるわ。宜しくね、兎ちゃん」
「……何でこの人が僕に向かって兎なんて言うんですかおじさん」
「怖い怖い、お前今すげー凶悪な顔してるっ」
「まぁまぁ」

ギロリと睨みつけてくるバーナビーを、窘めたのはネイサンだった。

「これでも飲んで落ち着いて頂戴」

すっと差し出されたのは乳白色のカクテルで、グラスには器用に兎の形をしたリンゴが付いている。
気に入らないリンゴを器用に鋏状の手で持ち虎徹を呼びよせるとその口の中に突っ込んだ。
そして、バーナビーは見た目甘ったるそうなカクテルに口を付けた。
甘みと爽やかさ、そして最後にアルコールの苦みが口の中へ広がる、とても上品な味だった。

「…美味しいです、」
「うふふ。気に入ってもらって良かったわぁ。これはね、ホワイトローズって言ってね虎徹ちゃんのリクエストなのよ」
「おいっ、ネイサンそれ内緒だって」
「自分じゃまだ作れないから、私に頼んだのよ、ねっ」
「まだ作れないんです、か……」

呆れたようにバーナビーが言葉を紡いで虎徹を見やれば、なぜか顔を真っ赤にさせてる虎徹の姿があって思わずポカンと口を開けて固まった。

「もう虎徹ちゃんったら照れちゃって!バニーちゃんにはこれがぴったりだって仕事中に言ってたじゃない」
「……」
「……」

気、気まずい…。
二人してお互いの顔を凝視している姿は端から見れば異様な光景だったが、今は盛り上がっているネイサンのみしかいない。
平常心平常心とお互い心の中で呪文のように唱えた。

「…おじさんも中々センスがあるようじゃないですか」
「どうも」

視線を逸らして何処となくそわそわする二人の姿にネイサンは若いわねーとにこにこと笑った。






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