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シザーハンズと愛の行方
鋏男と門と部品


まるで逃げるかのように屋敷へと帰って来たバーナビーは、買い物したものを博士の研究室に置き去りにして暫く屋敷内に引き籠っていた。
たまに思い出したように博士と会話することはあったが、それ以外は屋敷の庭の手入れに没頭していた。
元来庭の手入れをするために造られた存在なのだから、木を切る作業に集中するのが当たり前なのだが何故か物足りないと思ってしまう。
虎徹という人間と出会って、その人間と会話をする事が自分の中で大きな変化だと気付いたのは、町へ行った三日後の事だった。

その日も退屈な一日、夕暮れ時だった。
そろそろ暗くなるだろうとバーナビーは屋敷の門の鍵を閉めて、自室に戻ろうとした時だった。
視界に動く緑を捉えたのは。

(あれは…?)

門柱と壁を上手く使いよじ登ってくる虎徹の姿をしっかりとこの目で確認したバーナビーは驚きを隠せなかった。

「よっこらせ…っと、うおッ!」

屋敷内に入ってきた侵入者は門から降りるときに足を踏み外してドスンと尻もちを付いた。
痛みに呻く虎徹の元へとバーナビ―は走り寄る。

「何やってるんですか!?おじさん」
「イテテ…バニーちゃん…」

腰を擦る間抜けな侵入者にバーナビーは膨大な溜息を吐いた。

「生憎僕は貴方に貸す手を持ってませんので、自分で立ち上がってください」
「わーってるって」

親父臭い掛け声と共にゆるりと起き上がる虎徹にバーナビ―はどうしてここに来たんですか、と尋ねた。

「これ、渡そうと思って」
「これは…」

紙袋を渡され、バーナビーは器用にその紙袋を開けて中身を見た。
そこの入っていたのは町で博士に頼まれたものの一つだった。
その部品を捜すことなく屋敷に帰ってきていたわけなのだが、わざわざ虎徹はそれを探して持ってきてくれたという。

「その…。バニーちゃん、帰っちまうし、博士だっけ?…も、必要だろ」
「……」
「こないだは、悪かったな。お前の気持ちも考えずに、無神経なこと言っちまって…」

「…なんで、」

虎徹の言葉にバーナビーは首を左右に振った。
この人は何か勘違いしているのではないだろうか。
どうして謝る必要があるのだろうか。バーナビーにはさっぱりわからなかった。

「…勘違いなされているようですが、僕は別に何とも思っておりません。それよりもおじさんは自分の心配をした方が良いといったでしょう。いつまでも僕みたいな化物の相手なんかしてたら、仕事出来なくなりますよ」
「…お前って優しいよな」
「はあ?」
「心配、してくれてんだろ?」
「何言ってるんですか。僕はおじさんがどうなっても構いませんよ。ですが、恨まれたりされるのは厄介なので」

にこにこと笑う虎徹の姿に自分は何を言ってるんだろうかと頬に熱が集まるのを感じた。


「俺は大丈夫だからさ、今度俺のバーに飲みに来いよ!」
「…おじさん、さっき僕の言ったこと理解してます?」
「おう。だから大丈夫だって!」

一体何が大丈夫なのだろう。
仕事が首になっても、町を追い出されても、という意味なのだろうか。
虎徹の理解しがたい発言にバーナビーは眉間に皺が刻まれる。

「おじさんの考えてることがわかりません…」
「俺だってバニーちゃんの考えてることなんかこれっぽちもわからねーぜ」
「それはおじさんの脳みそがないからでしょう」
「お前!言って良い事と悪いことがなぁ…。…ま、いいか」

そう言って、虎徹はバーナビーの頭を撫でた。
驚愕のあまり身体を引いてしまったが、虎徹は気にした様子はない。
寧ろ悪戯が成功した子供のように無邪気に笑っている。

「やっと、年相応のお前と喋れた気がする」
「なんですか、それ…」
「ん?だってお前、その手のせいで他人と距離置いてるみたいだったしさ」
「…僕は別にそれで構わないんです。おじさんが要らないお節介をしてるんですから」

「お節介じゃねぇよ。おじさんの若い子指導だ」

それがお節介だということを誰かこのおじさんに教えてくれとバーナビーは思った。

「で、バニーちゃんはいつ暇だよ」
「暇ですか」
「バーに飲みに来いってさっき言ったろ」
「…あれ、本気だったんですか。冗談だと思っていました」
「お前なぁ…」
「そのうち」
「?」
「そのうち行きます。僕にも用事がありますから。さ、おじさん。そろそろ帰ってください。もう陽も沈みますよ」

バーナビーは門の鍵を開けて、人が一人出られるスペースを作った。
虎徹は小さく頷いて、するりとその隙間から屋敷から出た。

「あと、今度は普通に僕の名前を呼んで下さい。夕方までは庭に居ますから」
「わかった。じゃあな、バニー」

右手を軽く上げて虎徹はバーナビ―に背を向けた。
背中が少しずつ、見えなくなる。

「…おじさん、また」

バーナビーは虎徹の背中が見えなくなってから、言葉を紡いだ。








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