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シザーハンズと愛の行方
腕なしシザーハンズと愛の行方




真っ白な病室。
真っ白な空間。
自分が居る部屋と同じ造りの病室。
そこに、彼は、バーナビーは居た。

「バニー…バーナビー」

虎徹はバーナビーの元へと駆け寄って、彼の血色の悪い顔を見下ろした。
バーナビーはぼうっとした眼差しで虎徹を見詰めて、おじさんと呟いた。

「大丈夫か?」
「…あなたこそ。僕より、大怪我でしょう」

胸に風穴が開いたのに、僕より元気だなんてタフなんですね。
バーナビーはそう言葉を紡いで、小さく笑みを浮かべた。

「はは。俺はそう簡単には死なないさ。だって、お前が、心配だろ…?」

虎徹はバーナビーへと手を伸ばし、彼のプラチナブロンドの髪をくしゃりと撫でた。

「それならもう、あんな無茶はしないで下さいよ…」

バーナビーは目を細めて、心臓が止まるかと思ったんですからねと言った。
そして、ゆっくりと自分の腕を毛布から出して虎徹へと伸ばした。
鋏を奪われたその腕の先はなく、失われたまま包帯が巻かれていた。

「見て下さい。すっきりしたでしょう?」
「カッコ良かったのにな」
「ふふ…でも、これでもうあなたを傷付けることはないですよ」

抱きしめる腕も失くしてしまったけれど。そう思って。
元々そんな腕、持っていなかったなとバーナビーは自分の失くした手を見詰めた。

「そういえば、博士は?俺、会ってないんだけど、お前のとこには来た?」
「ああ。彼は…」

バーナビーの言葉と同時に院内を走る複数の音が聞こえて、遠ざかった。

「彼は、僕をまた殺しに来るかもしれませんね」

もう彼はきっと僕の元には現れないけれど。

冗談めいた言葉を吐き出して、クスクスと笑うバーナビーの姿に、虎徹はそっかと小さく呟いて。
彼がこんなにも柔らかに笑うのだと、虎徹はそう思った。

「…おじさん、いえ…虎徹、さん」

バーナビーは凛とした声色で虎徹の名前を呼んだ。
腕で自分の元へともっと近付いてと指示を出すと、彼は小首を傾げながらも近く近く、バーナビーの整った顔立ちを覗き込んだ。

「目、瞑ってください」
「は…?」
「ほら、早くして」

強く促され、虎徹は反射的に瞳を閉じた。
鼻腔にバーナビーの匂いを感じて、虎徹はあっと思った。
そして、そう思った瞬間に、彼の柔らかな唇が自分のそれと触れ合った。
ほんの一瞬の出来事だった。

「え…、え……?」

目をぱちくりと瞬かせる虎徹の姿を、バーナビーは愛おしく見詰めて微笑んだ。

「あなたが以前、僕に言った言葉を覚えていますか?」

バニーちゃんのこと知りたいって言ったら怒る?

「あ、当たり前だろ。俺だってまだ物忘れするほどの歳じゃ…」
「それなら、僕もあなたが知りたいって言ったら、どうしますか?」

暖かな緑色の瞳が虎徹の表情を映し出す。
その光景は、あの日の陽だまりの中に自分が居るようだと虎徹はそう感じた。

「ずっと、あなたの傍に居たいんです。虎徹さん、」

ずっと、自分に嘘を吐いてきた。
そうやって偽り続けた思いを正当化してきた自分を。
今日、終わりにするために。
伝えたかった気持ち。言わないと誓った想い。
その全てを、バーナビーは伝えようと唇を開いた。

「僕は、虎徹さんが好きです。愛しています。もし、僕に権利があるなら、あなたを愛する権利があるなら」

どうか。

「…権利って、そんなもんねーだろ?」

虎徹はそう言って笑った。

「俺がお前のこと好きで、お前が俺のこと好きなら。それで何の問題もないだろ?な?」
「腕がなくても、良いんですか?」
「俺はバニーがバニーらしく生きてくれるならそれで良いさ」

お前、今。凄く良い顔してる。
バーナビーはそう言われて初めて自分が笑顔で虎徹を見ていることに気が付いた。
虎徹は目を細めて、じっと彼の笑顔を優しい微笑みを浮かべたまま見詰める。

「虎徹さん、」
「なんだ、バニー?」
「バーナビーって、呼んで下さい」

「…バーナビー」


そうして二人は瞳を閉じて。
は惹かれあうように、もう一度。
口づけを交わした。









こんな手でもあなたの傍にずっといられる。

あんな手さえなくともあなたに、
あなたの気持ちに触れられる。



シザーハンズと愛の行方




もう、二度と。
僕は。




End







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