[携帯モード] [URL送信]

シザーハンズと愛の行方
傷塗れバーテンダーと愛の行方






シザーハンズと愛の行方



寒々とした世界に一人、ポツリと男が立っていた。
コートの襟を立てて寒さに身を丸くする彼は、束ねられた沢山の花を、一つの墓標へと手向けていた。
そして、もう一つ。
紙袋に包まれたものをゴソゴソと取り出して、彼は小さく微笑んだ。

「虎徹…」

背後から声を掛けられて、虎徹と呼ばれた男は名前を呼んだ主の方へと見遣った。
そこには背の高いがっしりとした体格の男が立っていた。

「やっぱり。ここに居たのか、」
「ああ。…今日は、命日だからな」

虎徹は袋の中身のものを墓標へと掛けて、目を細めた。
それは、あの日渡せなかったマフラーと同じものだった。

「渡しそびれたんだ。ごめんな」

ポンポンと墓標を撫でると虎徹は男の方へと振り返った。
胸に手を当てて男の下に歩み寄る虎徹に、一人で出歩くなと彼は眉を寄せて言った。

「すまん、アントニオ」
「全く…病院から抜け出して。ネイサンがヒステリックになってるぞ」

アントニオの言葉通りを想像して虎徹は苦笑を漏らした。

「そりゃあ、恐いな…」

寒さに肩を擦る虎徹にアントニオはそうだろう、と言って。
虎徹の首に自分のマフラーを巻き付けた。

「ほら、さっさと戻るぞ」
「ああ」

虎徹は頷いて、もう一度墓標へと視線を向ける。
そして歩き出したアントニオの後を、緩やかな足取りで追った。

「そういや、何でお前がここに?」
「バーナビーが目を覚ましたのにお前が居ないってネイサンから電話があってな。捜してくれって頼まれたんだ」
「えっ!あいつ、目を覚ましたのか!」

大きな声を上げた虎徹は、直ぐに胸の痛みに顔を顰めた。
アントニオはそんな虎徹の様子に馬鹿だな、と溜息を漏らした。

「全く、怪我人がこんな寒い中うろつくから」
「だからそれ、さっき謝っただろ…」

唇を尖らせて拗ねる子供のような虎徹の姿に、アントニオは何度だって煩く言うさ、と笑みを零した。
そうした遣り取りをしているうちに、大きな白い建物が目の前に現れ、アントニオは目を細めた。

虎徹も、バーナビーも、ユーリも。
以前、警察官だったころに住んでいた街の病院へと搬送されていた。
ここの病院はとても大きく、あの幽霊屋敷のある町の小さな病院とは比べ物にならなかった。
そして。
虎徹があの日、あのクリスマスの日にナイフで刺されて搬送された病院だった。
アントニオは気付かれぬよう虎徹の姿を見て、それから病院を見上げて息を吐き出した。白い息が空中を彷徨って消える。

「なあ、アントニオ」
「なんだ虎徹」
「これで、良かったんだよな…?」

寒さに鼻頭を真っ赤にさせた虎徹がアントニオの顔を覗き込む。
アントニオはそんな虎徹の言葉に、お前が良かったならそれで良いんだろ、と答えた。

「そっか…」
「でもな、俺は良いとは思わないぞ」
「……」
「…お前は無茶をし過ぎだ。あのときも、そして今回の事件のときもな」

バーナビーを助けるために、バケモノの前に飛び込んで。

「お前の身体がタフじゃなかったら、俺が来なかったら。お前もバーナビーも死んでいたかもしれないんだぞ」
「う…それ、は…」

虎徹は顔を伏せてもう一度、すまんと謝罪の言葉を口にした。
アントニオは肩を竦めてもう二度としてくれるなよと呟いて。
そして、虎徹の肩を傷に響かないよう軽く叩いた。



虎徹とアントニオは病院内へと戻り、バーナビーの病室へと向かっていた。
一番奥の部屋、バーナビーの病室を見付けた瞬間、中からネイサンが出てきて虎徹は視線を巡らせた。

「もう、どこ行ってたのよ。急に居なくなって心配したでしょう」

他の患者に気を使って静かに怒りを露わにするネイサンに、虎徹は謝って居なくなった理由を彼女に説明した。
虎徹の言葉を聞いたネイサンは小さく息を吐き出して、それならそうと言いなさいよね馬鹿、と本日二度目の馬鹿発言を食らってしまった。

「…ま、無事なら良いわ。それより、ほら。さっき目が覚めたのよ」

私は飲み物買って来るから、とその場から立ち去ったネイサンを見送って、虎徹は扉へと手を伸ばした。
しかし虎徹が扉に手を掛ける前にアントニオがドアノブを回して先に扉を開いた。

「お前も怪我人だろうが」

ほら、と促されて、虎徹はアントニオに礼を言った。
そして、バーナビーの居る病室の中へと足を踏み入れた。






back*next#

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!