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シザーハンズと愛の行方
鋏男と異形の男




「あなたはずっとバケモノですよ。バーナビー君」

ユーリの声が響いて、彼の背後でバチバチと青い炎が散った。
バーナビーは咄嗟にユーリと虎徹の間に入り込んで、不自然な光になんだと呟いた。

「起動には時間がかかりますが、それは新鮮な心臓が手に入れば何の問題もないでしょう」

ユーリが暗闇の奥へ視線を向けて言った。
バーナビーは闇の中から現れた忌々しい姿を捉えて背筋に悪寒が走る。

「これは…」

バーナビーは茫然と立ち尽くしたままユーリの手の翳す先を凝視した。
彼はそんなバーナビーに懐かしいでしょうと笑顔で言った。

「あの日あなたの両親を、そして多くの命を奪った。私の父の死体から、あなたの父が造り出した…。
あなたの切望の象徴と言ったところでしょうか?」

小さな灯に照らし出され浮かび上がった継ぎ接ぎに縫い合わされた忌まわし異形の姿だった。
轟々と燃える真っ赤な炎がバーナビーの脳裏をチラついて、彼は眉を寄せた。

「逃げろ、バニーッ!」

虎徹は拘束された手足を乱暴に動かして叫ぶ。
しかし、覚悟を決めたバーナビーは動くことはなかった。ただ、恐ろしい姿のバケモノを見据えていた。

「…僕のことは心配しないで下さい。それよりおじさん、あなたはどうにかそこから抜け出して下さい」

バーナビーは横目で虎徹を見ると、視線を前のユーリとバケモノへと移した。

「僕が手を貸すことが出来れば良かったんですが…あなたを傷付けたくない。でも、あなたには僕のせいで死んで欲しくない」
「おま…、我儘なヤツだなッ!」

虎徹は腕に力を込めて拘束具に綻びがないか確かめる。しかし、年季の入ったものでも拘束具には綻び一つなく、虎徹は舌打ちして今度は足へと力を入れた。

「我儘で、すみません」

眉を八の字にしてバーナビーは笑った。

動き出した異形の姿に気付いたバーナビーは目で追い、バケモノの攻撃を受けるべく鋏状の手を突き付けた。
ガキンッと甲高い金属音が部屋の中に響いて、虎徹はバーナビーの後ろ姿を見詰めたまま革製の拘束具から逃れるために身を動かした。

早くやめさせないと。
気持ちが徐々に焦りへと変わり、解けない拘束具に虎徹は何度も舌打ちをした。

そして。
バーナビーも最初は俊敏な動きを見せ相手を翻弄していたが、時間の経過と共に体力は削られ、動きは徐々に隙のあるものへと変化していった。
上手く避けられた攻撃も少しずつ受け流すことが出来なくなり、相手の攻撃は重みは増していく。
じわりじわりと蓄積していくダメージにバーナビーはとうとう異形の姿に捕らわれ、その身を鋏で壁に叩きつけられた。

「グ…ッ!」
「…バニーッ!?」

崩れ落ちるバーナビーを虎徹は呼ぶ。
バーナビーは口内に溜まった血を床へと吐き捨てると目の前の異形な存在へと視線を向けた。
鋏状の手を振り上げる、絶望の象徴。
父の造った、殺戮のシザーハンズ。
しかしそれはピタリと動きを止めて、ただ光のない瞳にバーナビーを映していた。

「あなたをまだ、殺すつもりはありませんよ。バーナビー君」

バケモノの後ろから現れたユーリは右手に刃物を持ってにこやかに微笑んでいた。

「さて、あなたの大事な人の心臓でも頂きましょうかね…」

その機嫌の良い声色に、バーナビーは全身の血液が落ちていくような感覚を感じた。

「やめ…ろ!」

コツコツと足音が妙に大きく響いて、虎徹の横で止む。
その動きは緩やかで、しかし無駄なものはない。
バーナビーは声を荒げ、痛めつけられて動かなくなった身体を地面に這わせて無意識に腕を伸ばした。
しかしその手はユーリにも虎徹にも届くことはなく、宙を彷徨うだけだった。

「…いや、だ…」

傷塗れの身体が痛い。
けれどもそんなことはバーナビーはどうだって良かった。
自分の身体が傷付こうと、血に塗れようと、そんなことはどうだって。
でも、たった一つ。
たった一つだけ、二度と失いたくないものがあった。

銀色に光る刃物が虎徹へと向けられる。
そっと胸の皮膚に押し当てられる瞬間、バーナビーは声を上げた。
動け、動け、動いてくれ、と。
しかしその声、は。

肉を突きさす鈍い音によって遮られることになる。







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あきゅろす。
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