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シザーハンズと愛の行方
鋏男とユーリ




「彼が…彼がやったのか…!」

バーナビーの叫び声が耳に届いて、バーでアントニオと虎徹の帰りを待つネイサンは驚いた。
彼女は急いで簡易ベットのあるバーの二階の、バーナビーの眠る部屋へと足を運んだ。

扉を開き部屋へと踏み込むと、ベットから起き上がった青年をネイサンは見遣った。
そして、彼が暴れたせいでボロボロになったシーツに視線を落として、一体どうしたのと、距離を置いたままバーナビーに問いかけた。

「記憶を…ずっと忘れていた過去を、思い出したんです。…どうして、どうして…」

床に足を付き、よろめきながらも立ちあがることが出来たバーナビーは深い息を吐いた。

「…ユーリ。ユーリ・ペトロフ。彼が…僕に復讐を考えている、男です」
「ユーリって…確かあなたの手を鋏にした博士のことじゃないの?」

バーナビーは小さく頷いた。

「詳しい話は後でしますよ。僕は、おじさんを助けに行かないと…」
「ちょっと、待ちなさい。あなた一人で行くつもりなの?」

ネイサンは手を上げてバーナビーが部屋を出て行こうとするのを止めた。
しかしバーナビーはその言葉を聞くことはなく、彼女に鋏状の手を突き付けた。

「邪魔を、しないで下さい。僕は行きます」

バーナビーの覚悟を知ったネイサンは肩を竦める。
わかったわと、溜息と共に言葉を返す彼女にバーナビーは礼を述べて、もう一つお願いがあるのですが、と言葉を切り出した。

「アントニオさんでしたか…、彼に連絡を入れて、あの屋敷に向かってくれと伝えてください。出来れば、僕が向かって暫く経ってから」
「…ちょっと、それ…どういう…」

お願いします。

そう言葉を付け足してバーナビーはネイサンの言葉を聞かずに部屋から飛び出した。
階段を駆け降りると軽い眩暈が起きたが、先程まで自分を苦しめていた酷い頭痛はなかった。
バーナビーはネイサンの店を出て、そして町を抜けた。
屋敷へと向かう最中、誰にも気付かれないよう周囲を意識して草木の中に身を潜めながら進んだ。
門を通り過ぎ、暫く壁沿いを静かに歩く。そうして以前、庭の草木を整えているときに見付けた場所へと辿りついた。
壁が崩れ落ち、大人一人が十分に入れそうな穴がぽっかりと開けている。
バーナビーはその穴を覗き込んで、その先に自分が手入れしている庭に視線を送るる。
そこに誰も居ないことを確認したバーナビーは、壁の大きな穴から中へと入り込んで屋敷の裏口へと足を進めた。

屋敷への侵入は簡単だった。
元々、自分とユーリしかいない幽霊屋敷のような所に誰も好んで入っては来なかった。
しかも、この屋敷が幽霊屋敷として呼ばれる理由をバーナビーは過去の記憶から思い出して、それなら尚のこと誰もこの屋敷には訪れまいと心の中で思った。

ここはバーナビーとユーリの住む屋敷だった。
何十年もの昔、この町は二人の起こした事件により、そしてこの屋敷から現れたバケモノの手によって滅びた。
漸く落ち着いて人の住み付き始めた町だが、未だに住民が少ないのはこの屋敷のせいだろう。
だが、詳しく町に知れ渡らず、幽霊屋敷として人々に恐れられているのはきっと、生きている人間が自分とあの男しかおらず、詳しく知る者がいなかったせいだ。
なんて皮肉な話なんだ。バーナビーはそう思い、しかしそれで良かったんだとも思った。

バーナビーは急いでユーリの元へと向かった。
彼の居る場所の見当は二つ。
今は彼の部屋へとなっている、以前はバーナビーの父親の書斎だった部屋。
もう一つは、父の生前に入ることを許されなかった。そして、この手を鋏に造りかえられ目覚めた、あの部屋だ。
バーナビーは自然と過去を失くして目覚めた部屋へと向かっていた。
目的の場所へと辿りつくと、バーナビーは扉の前で深い呼吸をした。
中にはきっとユーリがいるだろう。
そして、虎徹も。

(おじさん…、)

バーナビーは鋏状の手に力を込めて、ドアノブを回しその扉の中へと足を踏み入れた。






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あきゅろす。
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