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シザーハンズと愛の行方
鋏男と好奇な眼差し


その日はたまたま博士から用事を頼まれてバーナビーは町へと来ていた。
買い物リストを忘れないように頭に叩き込んで、不慣れな町を歩きまわる。
最初は綺麗な容姿に惹かれて女性たちが頬を染めて現れるが、そのうちバーナビーの異様な両手を見る好奇で凶悪な眼差しへと変わった。

(そんなにこの手が気になるのか、)

くだらない、と心の中で吐き捨てて、博士に頼まれたリストの物を買い集める。
日用品のものから、発明で必要な物など。
なぜこんな不自由な手の自分に買い物へ行かせるのだろうか。博士の人間嫌いもここまで来ると逆に清々しいとさえ思う。

好奇な目に晒されながらも買い物リストはあと一つ。
確か、新しい発明で足りない部品があったと嘆いていた。
この町にそんな特殊なもの売っているのかと周囲を巡らせたとことで、兎という恥ずかしい呼び名が耳に届いて振り返った。

「お!バニーちゃーんっ!」
「…おじさん?」

両手を大きく振る姿は、まるで犬が尻尾を大きく振るそれに物凄く似ていてバーナビーは肩を竦めた。

「そんな大声で変なあだ名を呼ばないで下さい」
「えー…可愛くていいじゃんかよ」
「おじさんが良くても僕は嫌ですよ。ほら、見てください」

周囲を見回すと好奇な眼差しは更に増えている。
それに気付いて、流石の虎徹も悪いと呟いた。

「それより、買い物か?」
「ええ。博士に頼まれまして」
「ふーん、何探してんの?」
「特殊な部品のようで探すのに手間がかかりそうで…」

これなんですが、と鋏状の手で器用にメモを取り出して虎徹に見せた。
虎徹は首を捻ってみたことないな、と答えた。

「…あ、バニーちゃん昼飯食った?」
「いえ、まだですけど…いきなり何ですか?」
「一緒に飯食わね?良い店知ってんだ。そんで、食ってから一緒に探そうぜ。その方が早く見つかるだろ?」
「あ、おじさん」

そうと決まればこっちに良い店あるんだ、とにこにこしながら虎徹はバーナビーの制止も聞かずに歩き出した。
先に先に進んでいく虎徹の姿にバーナビーは首を左右に振って溜息を吐き出した。




「お客様、申し訳ありませんが、こちらのお客様との入店はご遠慮頂きたいのですが……」


店員の謝罪の言葉を今日は何回聞くだろうか。
もう、耳にタコが出来るかも知れないとバーナビーは思った。
そしてその度に抗議の声を上げる虎徹の姿に頭も痛み出した。これも何度目だろうか。


「おいおい、この店も客を選ぶのかよ!」
「申し訳ありません…」
「申し訳ありませんって…別にいいじゃねーか」
「おじさん、もう僕は良いですから一人で入ってください」
「え?ちょ、バニーちゃん!?」

何度も繰り返されたやり取りを中断して、虎徹は踵を返すバーナビーの後を追った。
虎徹は小走りするとすぐにバーナビーの隣に追いついた。
相当ご立腹の様子で、頬を膨らまして怒る姿は良い歳したおじさんが何をやってるんだか、と思わず呟いてしまうくらいだ。

「なんだよ。飯食うくらい別に良いじゃねーか、なあバニーちゃんよう」
「人間なんてそんなものですよ。自分と違う姿形を少しでもしていたら恐れるものでしょう」
「人間って…手だけだろ。別に大したことじゃ…」
「この手が問題なんでしょう。刃物ですよ?おじさんは刃物をずっと持ち歩く人間と一緒に居たいと思いますか?…ああ、僕と一緒に居る物好きでしたね、忘れていました」
「…おい、何も自分の事をそこまで言う必要はないだろ?」

困惑の表情を浮かべた虎徹はバーナビーを見詰めた。
その真っ直ぐ過ぎる視線が嫌で無意識に顔を背ける。
そんな目で見られたことがない。一体どうすればいいかわからなくなる。

「…だって、事実でしょう。それに、僕は人間とは根本的に違うんですよ、おじさん」

「バーナビー…」
「もう良いでしょう。これ以上僕に関わったら貴方もお店を辞めないといけなくなりますよ。怪物のお友達だって理由で」

何も言えなくなった虎徹の姿を見ることはせずに、バーナビーは歩き出した。
何度か虎徹が自分の名前を呼んでいるが振り返らない。
それに、相手も自分を追ってこない。

これで、これでいい。
バーナビーは特に気に病むこともせずにただぼんやりと、買い物リストで買えなかったものの心配をしていた。
胸の中がズキズキと痛むことさえ、気付かずに。







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