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シザーハンズと愛の行方
バーテンと裁きと復讐



最初はそう、裁くための正義だった。
しかしそれはいつしか個人的な恨みへと変貌し、復讐という形になった。



ペらりぺらりと紙を捲る音が聞こえて、虎徹の意識は浮上した。
痛む頭を押さえようと手を動かして、その手が動かないことに気付いた虎徹は自分が診察用のいや実験台のようなベットへと磔にされていることを理解した。
暴れてみようと試みたが革製の拘束具はビクともせず、また薬の効き目が完全に抜けきっていないため身体を揺するよう動かすのが精一杯だった。
チッと虎徹は舌打ちしをして思考を巡らせる。ここから逃げるにはどうすればいいかと薄暗い周囲を目だけ動かして探る。
すると捲る音が止まりこちらへ歩み寄る男の姿を捉えた。
ユーリだ。

「お目覚めですか、虎徹さん」

ユーリはクスリと口元を緩めて笑うと、手に持ったバーナビーの日記を閉じた。
そして虎徹の前で立ち止まり彼を見下ろすと、近くにあった手術台のようなところにバーナビーの日記を無造作に置く。

「解きやがれ、この野郎!」

威勢の良い声を上げて暴れてみたが虚しく、薬のせいで視界が回る。
額に脂汗を掻く虎徹の姿を心配して、ユーリは大丈夫ですかと彼の茶色の髪を優しく撫ぜた。

「や、めろ…っ、クソ…!」
「こんな状況下に置いてもあなたは元気ですね」

笑顔を張り付けたまま、ユーリは虎徹の髪から頬、首筋、鎖骨へと指を滑らせた。
鈍い体では指先の感覚はなかったが、虎徹はユーリの動作に不快感を感じ、身を固めたままその男を見詰めていた。
そして、ユーリの指先は虎徹の左胸。ドクドクと脈打つ心臓の上でピタリと止まった。

「元気な心臓だ。これなら、アレにも申し分ないでしょう」

虎徹はユーリの何か得体の知れない言動に恐怖を感じた。
しかしここで引くわけにはいかないと出来るだけ声を張ってユーリに尋ねる。

「……アレ…って、なんだ…なんの、ことだ?」

声は震えて悲惨なものだった。
しかし、目の前に立つ男はまるで気にする様子はない。
ただ、ああ。と声を上げて薄暗い部屋の奥の、更に闇の深まる場所へと視線を向けて、虎徹にわかるように腕を伸ばし指し示した。
虎徹は男の指の先に目を向けた。暗闇の中、目を細めて見ればぼんやりと濃い影が捉えられる。

そこには人間の形をした何かがいた。
沢山のコードがその何かに巻き付き、繋がれ地面を這っている。
身体には幾つもの切断だれた痕と縫い目があって、虎徹はその異形な姿に息を詰めた。
腕と下半身は布で覆い隠されているが、布からはみ出た銀色に光るそれは最近見慣れるようになったものに近い。
そう、あれは。

「鋏……?」
「ええ。アレは私の作品です。正確には貰いもの、なんですがね」

所々破損してパーツが足りなくて困っていたんですよ。とユーリは言った。

「……パー、ツ…?」
「ええ。出来れば生きた新鮮なものが欲しかったのですが。そういったものは中々手に入りませんからね。…でも、私はとても運が良い」

最高のパーツですよ。
ユーリのその言葉に嫌な予感を感じて、虎徹は唾液を呑み込んだ。
珠となった汗がとうとう虎徹の額から落ちて実験台の下に敷かれた布へと吸い込まれる。

「彼の。バーナビー君への復讐に最適だと思うんです。あなたもそう思いませんか?」

彼の大切だと思う人間の、新鮮な心臓を抜きとって。
忌々しい、彼の全てを狂わせたバケモノの一部として、もう一度彼の全てを狂わそうと。

「…どうして、」

機嫌良く喋るユーリに虎徹は問うた。
彼は首を傾げて何がですか、と淡々と返す。

「どうしてあいつに、復讐なんかするんだよ」

ユーリは肩を竦ませて虎徹を見遣った。
虎徹の真っ直ぐな眼差しを見て胸がツキリと痛む。
そんな自分の姿を嘲笑って、男は良いでしょうと言った。

「あなたはとても真っ直ぐで、正義感のある人だから知る権利は十分あるでしょう」

話してあげますよ。
ユーリは実験台の横から少し離れた所から椅子を持ち出して、虎徹の横へと置いた。
そしてそこへ腰を掛け足を組むと、過去に思いを馳せるよう暗がりの中に視線をさ迷わせた。

「さて、少し。私の思い出話に付き合って貰いましょうか、虎徹さん」
「…わかった」

ユーリの言葉に虎徹は小さく首を上下に動かし頷いた。







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