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シザーハンズと愛の行方
鋏男と二人の子供



どうして、こうなってしまったのだろう。どうして。

悪しき感情に呑まれた青年の頭の中では小さな疑問の声が木霊していた。




彼は、優秀な子供だった。
幼少時代から常に成績はトップクラスで性格も良く、誰からも信頼を置かれるそんな子供だった。
両親ともどちらかといえば仲が良い方で円満な家庭で何もかも上手くいっていた。
彼の名前はバーナビー。バーナビー・ブルックス。
彼は将来を期待された有望な子供だった。

そんな彼には同い年の従兄弟がいた。
名前はユーリ。ユーリ・ペトロフ。
ユーリの家の事情は複雑で、そのためバーナビーの父親が彼を預かることになっていた。

それは12歳の夏の日のことで、そして少年たちは出会ったのだった。
二人はとても頭の良い子供で価値観が似ていた。そのため直ぐに二人は打ち解けて仲良くなった。
バーナビーの父親は博士だったこともあり彼らの遊びは専らそういう機械弄りやら科学の実験やらで、そんな父の真似ごとをして毎日を過ごしていた。

ユーリという少年は本当に、バーナビー以上に頭の良い子供だった。
しかし彼の性格は気難しく、子供特有の無邪気さがなかった。大人びた、と言えば聞こえはいいかもしれないが、大人たちにとってユーリという子供は大変捻くれた子供であった。
そんな彼はある一つのことに固執する性格にあった。
正義。
道徳、道理に反するものが彼は大嫌いだった。
そのせいか周囲のは寄りつく人間は居らず、特に子供はそんなユーリを煩わしく邪険に扱った。
友達は一緒に住むバーナビーだけだった。しかし彼自身はそんなこと気にする様子もなく、周囲の子供たちのことはキャンキャン吠える煩い犬、程度にしか見ていなかった。
だからバーナビーとユーリは学校でも一緒になることは多かった。
元々バーナビーも同級生が子供っぽくて近付き難く、話が合わないこともしばしばあった。
だから父のような難しい話が通じるユーリはバーナビーにとって気が楽で会話に困らない唯一の人間だった。
家でも学校でもずっと一緒。何も困ることはなかった。
そう。あのときまでは何の変哲のない家族と、幼馴染であり兄弟に近しい存在だった。

しかし。
少しずつ少しずつ、歯車がかみ合わなくなる音が聞こえ始めていることに、バーナビーは気付くことはなかった。

数年の年月を経て、二人はいつしか青年へと成長していた。
声変りもとうの昔に終えたバーナビーとユーリはいつしか共に歩むということを止めていた。
バーナビーは大学に通い経済学を学び、ユーリはバーナビーの父親の元で研究の助手をしていた。
バーナビーはユーリが父親に気に入られていることも知っていたし、研究という特殊な方面で才能があることも知っていた。だから自分も自分の道を決意して父に認められようと頑張っていた。
しかし、この違和感は拭い去れなかった。
父は息子の自分よりもユーリを優先し、バーナビーの話は二の次だった。
仕事面の話ならば仕方ないと思っていたバーナビーもそれが何度も続き、やがでどうして彼なんだとろうかと疑問を露わにするようになる。
そして一度、膨らんだそれは徐々に大きく醜いものに育ち、いつしかバーナビーの中で彼は赤の他人のくせに、と思うようになっていった。
勿論バーナビー自身それが酷い感情だということは理解していたし、思っても口にしてはいけないことだと判っていた。だからその感情が表に出ないよう出来るだけユーリから離れ、極力接触を減らし、そして彼と会話するときはいつもの自分を装っていた。負の感情を誰にも悟られないように必死だった。

そんなある日のことだった。
その日はバーナビーの誕生日で、両親と従兄弟のユーリと四人で食事を摂る約束をしていた。
家族揃っての食事。しかも自分の誕生日に、だ。
父が博士として仕事をしていることもあってなかなか自分の誕生日をきちんと祝って貰えなかった。
それが今日は、揃って食事をしようかと父が言い出したのだ。珍しいこともあるものだとバーナビーは心躍らせていた。今日ならきっとあの父も、自分の話を聞いて頷き、意見を口にしてくれるかもしれない。
いつの間にか掛け足になって、バーナビーは自分の住む大きな家に辿りついた。
目の前に広がる少し古びた家も今のバーナビーにはとても美しく見えて自然と口元が綻んだ。









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