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短編
苦労人のいないおまけな話




泣いてるんですか。
そう問えば泣いていないとはっきりとした声が返ってきた。
どうやら本当に泣いてはいないらしい。
真っ赤な目元がバーナビーの姿よりも兎のようだ。

シャワールームの横に設置されているベンチに腰かける虎徹の隣にバーナビーは座った。

嫌がられるかと思ったが、そんなことはなかった。
大柄なバーナビーが座れるよう横にずれる虎徹をバーナビーは心の内で可愛いな、と思った。

「悪かったな」

小さな声で謝罪する虎徹に、バーナビーはいえ、と言った。
目を丸くする虎徹に少し意地悪をしたくなって謝罪なんていりませんと言う。

「え?お前まさか本当にコンビ解消とか、思ってないよな?」

さっと顔色を悪くさせる虎徹に、そうしたいんですかと問えばぶんぶんと首を左右に振った。

「じゃあ、僕に言って下さい」
「へ?何を…?」
「わからないんですか?僕、まだ一度も誘われたことないんですよ」
「ああっ!」

ぱっと顔を上げる虎徹に、バーナビーは表情はそのままに心はうきうきしていた。

「バニーちゃん、一緒に飲みに行こうぜ!」
「おじさんの奢りなら」

クスクスと笑ってバーナビーが答えると、虎徹はお前の方が金もらってるだろ、と唇を尖らせた。

「じゃあ、あの人と一緒に飲みに行くのは止めてください」
「??」

アントニオとバーナビーは仲が悪いのかと見当違いな考えをしている虎徹の姿をバーナビーは裏のありそうな笑顔で見詰めている。
しかしそれに気付くほど虎徹は鋭敏さはなく、惚れた相手の頬笑みに深く考えることはしなかった。

「それより、おじさんお金はあるんですか?」

あ、と間抜けな声を出す虎徹に、バーナビーは苦笑を浮かべた。

「そんなことだろうと思いました。…その、もし良ければ僕の家に来ませんか?」
「え!?バニーちゃんのっ!!」

おじさん酒癖悪そうだから、何かあっても家だったら大丈夫でしょう。
尤もな理由を次々と並べ、結局バーナビーが良いのならと虎徹はこくりと頷いた。
たまには誰もいないところで色々な話しをするのも良いしな、と笑う虎徹に、バーナビーは凶悪な笑顔を見せた。もちろん鈍感な虎徹にはそれが危険信号だということはわかっていない。

そして、虎徹がぺロリと肉食系兎に食べられるのは、あと数時間後の話であった。






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