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短編
苦労人の話・後

牛→虎→←兎
続き。





次の日、トレーニングルームに現れた親友と相棒の空気は最悪だった。
あらかさまに機嫌の悪いバーナビーと、二日酔いで頭が痛むのかフラフラと歩く虎徹。

どす黒いオーラを感じた他のヒーローたちは、自然と二人から距離を置く状態となった。

「全く、おじさんのせいで時間が押したんですよ」
「そんなどなるなよ…、頭に響くだろ……」
「わざとそうしてるのがわからないんですか?」
「まあまあ、落ち着けよ」

虎徹の心中を知るアントニオとしては、この状況は可哀想だと二人を宥めるために前に出た。
それがバーナビーの怒りの炎にさらに油を注ぎこんでしまっていることにアントニオは気付いていなかった。

「昨日はあなたと飲んでいたようですね。どうしてこんなになるまで飲ませるんですか?仕事に支障が出るとわかっているでしょう」
「あー…」

虎徹がお前のことで盛り上がって、とは口には出せず。
どうしたものかと視線を彷徨わせるも話はどんどんと進んで行ってしまう。

「俺が誰と飲もうと別にいいだろ?俺が悪かったって」
「そうやって庇うんですね。だったら僕とじゃなく彼とコンビを組んだらどうですか?ずいぶん仲がよさそうですし」

疑問に思ったのはアントニオだった。
何で、俺を庇う庇わないの話になってるんだ?
チラリとバーナビーの姿を見てその違和感に気付いた。
バーナビーは嫉妬に似た感情を虎徹にぶつけているのだ。


「何でそうなるんだよ!?俺はお前とだって一緒に飲みに行きたい、仲良くしたいってそう思ってんのによっ」

もういい、と声を荒げたのは虎徹だった。今にも泣きだしそうな酷い表情を浮かべて、シャワールームに姿を消した男の姿を、バーナビーは強い眼差しで見詰めていた。


「…一緒に?飲みに誘ってくれたことなんて、一度もありませんよ」


ポツリと呟いた声に、アントニオは目を丸くした。
先程よりもトーンを落とした声で、何であなたばかり、と。

「おい」

確かに聞こえた。気のせいではない、はずだ。

「なんですか?」

殺気の籠った目で睨みつけられて、アントニオは肩を竦めた。

「虎徹と飲みに行きたいのか?」

アントニオが言葉にすれば、バーナビーは口許を歪めて笑った。自嘲だ。

「…少しぐらい、望んでも罰は当たらないでしょう?」
「アイツに言えばいいだろ」
「……あなたに何がわかるんですか?」
「少なくとも虎徹の考えてる事はわかる」

ギロリとまた睨みつけられて、思わず笑ってしまいそうになった。
バーナビーというこの男はこんなにもわかりやすい人物だったろうか。
たった一人、虎徹のことに関して、嫉妬をぶつけてくる。
若い。いや、子供のようだと言った方が正解かもしれない。
捻くれた子供だな、と小な声でぼやけばちゃんと聞こえなかったのだろう、何ですかと返ってきた。

「アイツにはちゃんと言葉で言わないと伝わらないからな」
「……」
「少なくとも、アイツはお前のことが好きで、一緒に酒を飲みたいんだと言ってるんだからな」
「そんなこと、わかっていますよ」

ただ、僕はあの人の口から聞きたいんです。

失礼します。シャワールームを見詰めたまま、バーナビーはアントニオに言い、そのまま歩き出した。
その背筋を伸ばした綺麗な後ろ姿を見て、ふぅ、と大きな溜息を吐き出した。

「歳を取ると、中々本心は言えなくなるものさ」

だから俺は言えなかったんだけどな。と、アントニオは笑みを浮かべた。

「ま、俺の出る幕は終わったし…」

今度、虎徹に奢らせよう。と言葉を漏らして、アントニオはトレーニングルームを後にした。


「あとはもう、好きなようにやってくれよ」

親友と相棒に向けて一言だけ呟いた。








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