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短編
苦労人の話・前

牛→虎→兎です。
苦手な方はback。






ヒーロー時代からの親友は酒を飲むと一気に感情が不安定になる。
昔はこれほど起伏が激しくはなかったのだが(それでも娘のことでよく笑いよく泣いてたりした)新しく入ったヒーローが親友の心を波立たせるらしい。
その相手の名前はバーナビー・ブルックスJr。
虎徹と同じハンドレットパワーを持つ、彼の相棒だ。
テレビの前では好青年を演じているが、ヒーロー側から見れば最も扱い辛い人物だと思う。

親友は超がつくほどのお節介焼きで、それだけならまだ可愛げがあるのだが(いい歳した親父に可愛げと言っていいのかはまた別として、)彼の場合それが全て裏目に出てしまう不運な体質だった。
お陰で二人の相性は最悪。
親友でなくともやっていくには苦労するだろう。

それまでならまだ良いとしよう。お互い仕事だけの間柄でやっていけばいいのだがら。
しかし親友はそれが出来ないという。
重度のお節介で痛い目を見てるのだから止めておけ、と言えばそうじゃないと返ってきた。

「おれ、バニーちゃんが好きなんだよぉ…」

親友のそれはlike、ではなくlove、らしい。
いい歳したおじさんが何やってるんだと言えば、そんなんわーってると呂律の回らない舌で答えた。

「でもよ、もうちょっとさ…仲良くなれたらいいなって…おじさん思ったら駄目かな……」


はぁ、と溜息を吐くその表情はおじさんというより乙女だ。
虎徹のそんな姿にいつもなら詳しく話を聞くアントニオだったが今日は違った。
親友の恋愛話など(奥さんの話はあまり聞かなかったというのもあり)免疫がなく、どうすればいいのかわからなかった。

取り合えず、虎徹の肩をぽんぽんと優しく叩いて、明日も仕事だろうと席を立った。
家まで送るからさっさと寝ちまえ、とそう呟いて、自分の肩に虎徹の腕を回した。
勘定の半分は明日にでも貰えば良い。

覚束ない足取りで歩く、虎徹の歳の割に細い腰を抱く。
転びそうになる親友の身体を腕だけで持ち上げて、これなら虎徹を抱えたほうが早いか、という結論に至る。どうせこんな夜中にこんなおじさん二人の酔っ払った姿を誰も見はしないだろう。

「虎徹、担ぐぞ」
「ん〜……」

呻く声が伏せられた顔から聞こえる。どうやら親友は夢の中の住人となっているようだ。
これなら暴れる心配はないと、アントニオは虎徹の腰を持ち上げ肩に担いだ。

そう言えば以前もこうやって抱えたことがあった。
そのときは所謂お姫様だっこというものだったが、あれをしたときの親友の暴れっぷりを思い出して、相棒以外は嫌なのかとアントニオは地味に凹んでしまった。
思えばあの頃から親友は相棒のバーナビーが好きだったのかもしれない。

「何でバニーなんかにいっちまったんだか」

ポツリと呟いて口元を歪めた。
親友は小さな寝息を立てているだけで答えはしない。

「俺だって……。」

何度このままさらってしまおうかと考えたか、きっと虎徹は知らないだろう。
夜な夜な親友のお前に酒の相手になってくれと呼びだされて。何度、心躍ったことか。

そうして呼びだされて、自分が親友というポジションから抜け出せない事実に打ちのめされるのだ。

だから虎徹のためにと言って、自分に嘘を吐いた。
親友という、揺るぎのない嘘を。

いつだって虎徹の一番近くにいられる、親友でいようと。
何にも染まらない真っ直ぐで、心優しくて、お節介で、誰にでも簡単に手を伸ばしてしまう親友が、好きだと、愛している言える。
親友、として。

そんな虎徹の想い人が自分であれば良いと。
いつか親友から抜け出せると信じていた。
自分はただの臆病者だったようだ。

虎徹は捻くれていて、不器用で、傲慢で、けれど愛情に飢えているあの青年に心を持っていかれた。
それはきっと虎徹にないものを彼が持っているからなのだろう。
自分とはきっと違う。
虎徹も、バーナビーも真っ直ぐ相手を見詰めている。

「虎徹、着いたぞ」
「うーん……」

鍵を出せ、と親友に声を掛けると、もぞもぞと身を動かした。
ポケットへ手を伸ばしてシンプルな鍵を取りだした。
それを眠気眼の親友から受け取り家へと上がると、寝室に親友を運び寝かしつけた。

「じゃあ、帰るぞ。家の鍵は郵便受けに入れとくからな」
「ん…、さんきゅ…」

毛布から顔を覗かせて、へらりと笑う親友の顔を見てアントニオは適わないなと心の中で呟いた。

惚れた弱みだろうか、いつだって自分は彼の味方でありたいと思う。
親友という、もっとも恋愛から程遠いポジションしかないけれど。
そこが一番彼に近いということをアントニオは臆病ながらに知っていた。










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