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短編
レプリカ

マフィアパロ書きたいなぁ……と思って、海老とウニが熱いからバニーのクローンなウニで話し書いちゃったよははん!そんなとんでも設定ですが、どうぞ。
相変わらず、一人称が嫌いなくせに一人称で書いちゃいました。


レプリカ




自分がただの捨て駒だということは、生まれ堕ちた瞬間から知っていた。
バーナビー・ブルックスJr。
彼の影武者として、彼の細胞から造り出された同じ姿形をした自分は、彼の為に生きることを定められ、彼の為に死ぬことを定められていた。
自分の意見は認められない。意見など口にすれば、僕は失敗作として処分されてしまう。
そうやって何人もの自分と同じ姿形の失敗作を見てきた。
山積みにされた死体を感情的に、けれど無表情で見下ろして。僕はそれらにはなりたくないと、世界を、運命を憎む心を殺して、操り人形として彼らの言いなりとして生きてきた。
生きて生きて、いつか本物の、もう一人の自分に成り変わる為に。

そして、時期と機転というものが僕にも訪れた。
彼の父親。否、僕の父親と言ってもいいのかもしれない。その彼が、自分の築いた強大なマフィアの内部に潜む裏切り者に殺されて死んだのだ。
彼と幹部と息子だけが入ることを許された豪邸の中、拳銃で一発、心臓を打ち抜かれて。そして真っ赤な炎に包まれた豪邸は彼と共に燃え盛り、証拠は何一つ上がらなかった。誰が殺したのかわからない。犯人は未だこの組織の中にいる。けれども僕にはそんなもの関係なかった。
ただ、僕がマフィアのボスとしての座を得られると囁いた男の言葉だけが、重要だった。
男が父であるドンを殺したのかもしれない。しかし僕にとってはドンの死よりも何よりも、僕の存在が全てだった。
バーナビーの影として駒としてレプリカとして、闇の中で葬られるなんて受け入れられなかった。だから僕は男の言葉に縋ったのだ。

「お前一人ではバーナビーをドンの座から引きずり落とすのは何かと不自由だろう。だから、私からの細やかな贈り物を上げよう。これは君の思いのまま行動するようプログラムされている」
男は裏の顔を隠したまま、笑顔で僕に一体のアンドロイドを託してきた。H-01と言った。
このアンドロイドは、とある殺し屋だった男が素体となっているらしい。身体能力は通常の人間よりも遙かに上で、確かに自分一人では対処出来ないこともあるだろうからと僕は渋々、そのアンドロイドを受け取った。
感情の存在しないこのアンドロイドと、人間と付き合うのではこちらの方が断然ラクだろう。しかし腹の内ではこんなもの必要ないと、僕はそう思っていた。けれど、今の自分ではバーナビーを消すことは出来なかったから、アンドロイドを受け入れるのは仕方がなかった。
僕はこのアンドロイドに黒虎(クロト)と名前を付けた。ただ何となく、名前がないと不自由だとそう思ったからで、特別な感情などは持ち合わせていなかった。
否、最初はそうだったけれど、僕はいつしかこのアンドロイドにどうしようもない感情を抱いていたのかもしれない。
自分の斜め後ろをいつも無表情で付いてくる黒虎。最初はそれに苛立つ事も沢山あった。データ的で、覆せないことがあって。人間ならば嘘で隠そうと言葉を吐き出すが、黒虎は偽りなくそれを述べた。僕は、成り損ないでも人間だったから、黒虎の言葉に何度も憤慨して壊してやろうかと思った。
けれども結局僕には黒虎しか存在しなくて、そんな黒虎は僕の、僕だけの右腕だった。

「黒虎……」
『なんだ、バーナビー』
「僕がもし、負けたら。僕を殺して下さい」
黒虎は直ぐにわかったと返した。僕はそんな黒虎の機械的な金色の瞳を見つめて小さく笑った。



「人間というのは、どうしてこんなに面倒臭い生き物なんでしょうね?」
血にまみれた僕は、定められた運命から逃れようとしてはいけなかったのだろうかと。対峙したもう一人の僕に問いただした。
いや、もう一人の僕だなんて烏滸がましい。
僕はただの偽物で、捨て駒で。クローンだから、短命だということも理解していた。
それでも僕は、僕でありたかった。自分という存在を殺してでも、僕は“僕”に成りたかった。
誰にも知られないまま、バーナビーに成れなかった失敗作。山積みにされた死体の処分は、誰にも悲しまれることなく行われ、僕は焼却される沢山の死体に成りたくはないとただ、生きた。
「……バーナビー」
「はは、僕をバーナビーと呼んでくれるんですね。ただの失敗作なのに」
「……」
「僕なんか生まれてこなければよかった……いや、造られなければよかったのに。そうしたら、こんな感情なんて知ることなかったのに……」
緩やかに壁にもたれ掛かって、僕はくつくつと笑った。笑う度に鮮血が胸から溢れて、息苦しかったけれど、どうしてか止まらなかった。
解放感。きっとそれだったのだろう。
もう、何も考えずに済むのだとそう思うと、僕は少しの間自分の傍に居た黒虎を見上げた。
黒虎は僕の指示を待って大人しく僕を見下ろしている。
「黒、と……、どうやらあの言葉を実現させる時が来てしまった……」
『そうだな、バーナビー』
「僕が死んだら、お前はどうなるんだろう……? 廃棄処分かな……」
『さあ、どうだろうな』
黒虎は先ほどの言葉を指示と受け取ったのか、ゆっくりと僕の元へと歩きだした。
金色の瞳は僕だけを真っ直ぐに見つめていて、それが嬉しい。
腰を下ろした黒虎は乾くはずないその瞳を何度も瞬かせて、僕を見下ろす。人間のような動作をするくせに、とても不器用な黒虎が愛おしくて、僕は音を発さないまま唇だけでごめんと謝った。
黒虎は僕の言葉の意味を理解出来るだろうか。そもそも、アンドロイドの彼女がそこまで理解しているのかわからないけれど。
黒虎は隠し持っていた折り畳み式のナイフを取り出した。鋭く光るそれが僕の命を奪うものだと知ったバーナビーはやめろと大声を上げる。その声で彼の部下である人間たちは風のように走り、彼女の行為を妨げようとする。
でも、もう遅い。
黒虎の手に持ったナイフは勢いをつけて振り下ろされた。
それはきっと、僕の心臓に綺麗な風穴を開けて、僕を絶命させてくれるだろう。
最後まで、酷い主でごめん、黒虎。
出来ればお前は本物のバーナビーの元、彼の世話が出来たらいいのだけれど。
『俺の主はお前だけだ、バーナビー』
淡々とした声が耳元に届いて、僕は瞳を閉じてうんと頷く。
貴女は僕だけの右腕だ。当たり前だろ?
落ちたナイフは僕の身体の肉を引き裂き、生温かい液体は床一杯に赤黒く広がった。
そう思った。


『エラー……エラー……』
黒虎から発せられた言葉に僕は瞳を開いた。
誰だかわからないが、アンドロイドを造った人間はどうやら彼女を本物の人間にさせたかったようだ。
頬から伝わり落ちたそれは彼女にはわからないだろうが、僕は嫌というほどそれを知っている。
「涙なんて機能があるのか……」
止まってしまった黒虎は、ぽたぽたと冷たい雨を滴らせている。僕は彼女がエラーを発する理由を考えて、まさかと首を振った。
「彼女は貴方に、死んで欲しくないどうですよ」
しかしそれを代弁するように同じ顔がそう呟いて、黒虎からナイフを取り上げた。彼女の腕は重力に任せ、僕の身体を包むように落ちた。
「くろと、くろと……くろと……」
僕は震える指先で彼女の涙を拭った。僕の指先は血で汚れているから、黒虎の頬が少し汚れてしまったけれど。そんなの今は関係なかった。
ただ、黒虎を抱きしめたかった。
「……くろと、くろと……っ」
引き寄せた身体は未だエラーで動くことはない。それを黒虎自身が選んで、自分のプログラムと引き替えに生きろと僕に伝えてくれた。教えてくれた。
「……僕には、貴女がいたんだ……。もう、彼に成ることなんて、なかったんだ……」

ねぇ、黒虎。
赦されるなら、僕はもう一度、君と生きたい。









おまけ。



「バニーちゃん」
「何ですか、虎徹さん」
「機械だっていうのに、人間みたいに動いて、すごいな」
「ええ、そうですね。彼女は機械という定めを越えて、彼を、自らをダウンさせることで生かしたんですね」
「ああ。そうだな……」
「……僕にも、彼女のように越えられますかね……」
「ん?」
「父を殺した人間を、目の前にして……」
「……。なーに、どうってことないさ!」
「!?」
「お前には、俺がついてるだろ?」
「……そう、ですね……頼りないですけど」
「こいつっ!!!」





「黒虎」
「クロト?」
「お前の名前。H-01だとか、アンドロイドだとか呼びにくいから、黒虎」
「……わかった、俺の名前は“黒虎”」
青年は頷いて、先に先にと歩いて行く。
黒虎、と名付けられた自分は、真っ直ぐ前だけを見つめる青年の後をついて歩く。
(黒虎、黒虎……嬉しい)
それは初めて彼女に人間のような感情を植え付けた瞬間だった。
青年がそれに気付くことはなかったけれど。
黒虎は青年の後ろ姿を見つめる。
ずっと彼の側に居たい。データには存在しないこの感情を黒虎は危険なものだと、ひたすら内側に隠し続けた。






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