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短編
誕生日の話 後


そうして、バーナビーの誕生日。
少女たちから誕生日おめでとうというお祝いの言葉と、お手製のクッキーやらお手紙を貰ったバーナビーは、それらを全て受け取ってから、幼稚園を休めばよかったと深く後悔した。
彼女たちに祝ってもらうほど自分は大層な人間ではないし、こんなに沢山のものを貰っても返すのが難しい。それに、一番祝ってほしい虎徹は今日は帰られないからとユーリとユーリの母親にバーナビーを頼むと告げていた。なら、意味がないとバーナビーは心の中で思う。
たった一歳年を取るだけだ、誕生日なんて必要ない。
でも、そう思いながら、心のどこかで落胆している自分がいることに気付く。
昨日まではあんなに平気だったのに、自分の誕生日に虎徹が帰ってこないとなるとやはり相当の衝撃だったようで。それでも虎徹は仕事で忙しいから、仕方がないと自分に何度も言い聞かせて、昨日と同じように迎えに来たユーリの手を少し乱暴に握って、彼の家へと上がった。

「バーナビーちゃんが来るって聞いて、ケーキ作ったのよ!沢山食べて頂戴ね!」

ありがとうございますとお辞儀するとユーリの母はニコニコと笑みを浮かべながら沢山のケーキを取り分けてくれた。バーナビーはそれを細目で見つめると、前に座ったユーリがケーキの量に苦笑を漏らしていた。本当に凄い量だ。

「虎徹さんもバーナビーちゃんの誕生日くらいお休み取れたらよかったのに、残念ね」
「ヒーローのお仕事はお休みがないみたいで、心配ですが。虎徹さんは元気だけが取り柄なんで」
「ほんと、バーナビーちゃんはしっかりしてて、虎徹さんも安心ね」
「はい!」

虎徹も安心だとユーリの母に言われて、バーナビーは大きく頷いた。虎徹に自分のことで心配はかけられない。早く大人になってもっともっと安心させて、そして自分の手で両親の、そして虎徹の大切な人を奪ったあの事件を解決させて、彼女を支えるのだ。
バーナビーはケーキの上に乗った大きな苺をフォークで刺して口へと運んだ。虎徹は苺を最後に残していたなと以前二人でケーキを食べた時のことを思い出して、早く虎徹の仕事が終わらないかなと、彼女に会いたいなと。バーナビーは甘酸っぱい苺を口一杯に頬張りながらそう思った。


夜も深くなり、うとうとし始めたバーナビーをユーリは客室のベッドへと連れて行った。まだ寝ないと駄々をコネるバーナビーにユーリは困り果てたと同時にインターフォンが鳴り、それに気付いたバーナビーはユーリの腕からすり抜けて玄関へと走って行った。ユーリはバーナビーのそんな様子に一瞬肩を竦めたが、その後を追って玄関へと向かうとバーナビーより先に扉の鍵を開けた。

「虎徹さん!」
「わ!バニー!」

虎徹は自分の腰に抱きついたバーナビーの頭を撫でると、虎徹はただいまとユーリに笑った。寒さで鼻を真っ赤にさせている虎徹にユーリはリビングへと伝えると、紅茶を淹れるために先に部屋へと戻っていった。
虎徹はユーリの後ろ姿を見送って、腰に抱きついたままのバーナビーの腕を剥がして彼の前でしゃがみ込んだ。

「遅くなってごめんな?誕生日おめでとう、バニー」
「別に…祝ってくれなくても良いです…たった一歳年を取るだけですから」
「んー?そんなこと言うなよ。お前が生まれた大切な日なんだから」
「……」
「な、バニー?お前にプレゼントがあるんだぞ」

気に入ってもらえるかは別だけど。と虎徹は笑みを零すと、バーナビーの手を引いてリビングへと戻った。

「虎徹、蜂蜜入れようか?」
「ん、ちょっとだけ。バニーには蜂蜜入りのホットミルク頼めるか?」
「ああ、わかった」

虎徹はバーナビーを椅子に座らせると、その隣に腰を降ろした。そして鞄からゴソゴソとプレゼントを取り出すとバーナビーに手渡した。

「ハッピーバースデー、バニー。一日遅れだけど、受け取ってくれるか?」
「虎徹さんがくれるものなら何だって大事にします」

バーナビーは虎徹から受け取ったプレゼントを大事そうにぎゅっと握りしめた。自分でも子供だと思ったが、バーナビーはそれ以上に虎徹に貰う言葉やプレゼントが嬉しかった。

「開けても、良いですか?」
「もちろんさ。どれにするのか結構悩んだんだぞ?アントンに付き合ってもらってさ、これが良いって」
「……」

虎徹の口から幼なじみのアントニオの愛称が出てきて眉を寄せたバーナビーだったが、虎徹はその様子に気付くことはない。バーナビーは小さく息を吐き出してから、包装紙を丁寧に外し、箱を開けた。

「本当はさ、玩具の方が良いと思ったんだけど。子供扱いが嫌だってずっと言ってたからさ、俺なりにちゃんとしたもん買ったつもりなんだぜ?」

照れ隠しにそう言う虎徹の姿を見て、プレゼントを見つめた。それは子供らしくないシンプルなプラチナのペンダントで、裏には誕生日の日付と虎徹からバーナビーへと文字が刻まれていた。

「それ、開くようになっててさ、中に写真を入れられるようになってるんだ。ご両親の写真とか、入れられたらいいかなって思ってさ……」
「……」
「バニーはいつも俺に迷惑かけないようにって思ってるだろうけど、たまには俺に甘えても良いんだからな?もう過ぎちゃったけどさ、誕生日くらい、年相応のお前を甘やかしてやりたいって思ってるからさ」
「……虎徹さん、ありがとうございます。でも、僕は貴女に甘えてばかりだから今のまま十分なんです。それに、直ぐに大人になって今度は貴女を支えられるような立派な大人になりたいから」
「はは、バニーになれるのかよ?」
「甘く見ないでくださいね。虎徹さん、後悔したって遅いですから」

後悔なんてしないさ、楽しみにしてるよ。虎徹はそう微笑んで、バーナビーに送ったペンダントを彼の首に付けてやった。キラキラと輝くペンダントはバーナビーの金の髪と同じ色をしている。

「さ、今日はもう遅いからホットミルクを飲んだらユーリの家でお泊まりしような」

こくりと大きく頷いたバーナビーに虎徹は微笑むと、ユーリが紅茶とミルクのマグカップを持って二人の前に現れた。

「虎徹、バーナビー君。はい、出来たよ」

タイミング良く現れたユーリに虎徹は笑みを向けて、紅茶を受け取った。バーナビーもそっとマグカップを受け取り、熱いミルクをふうふうと冷ましている。

「ケーキ、まだ沢山残っているから起きたら持って帰ると良い」
「ああ。そうする。ユーリのおばさんのケーキ上手いもんな!今日は休みだし、バニーもお休みだから。誕生日パーティゆっくりするか、な?」
「虎徹さんどうせ家に帰って二度寝してお昼は潰れるでしょうけど…夜は出来ると信じてますよ」
「このチビ…」

反抗的なバーナビーの癖毛をくしゃくしゃと撫でくり回した虎徹は、鳥の巣のようになったバーナビーの髪型を見て声を上げて笑った。バーナビーはそんな虎徹にむっと唇を尖らせたがその表情はとても穏やかで、そんな二人を見つめていたユーリも自然と口元を綻ばせた。




ハッピーバースデー、バーナビー!








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