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短編
誕生日の話 前
5歳チビバニと、18歳にょた虎、17歳ユーリでのお話。
にょた虎と書いておきながら殆どそんな描写はありません。





「バーナビー君って、明日お誕生日なんでしょう?」

同じクラスの少女たちがバーナビーを取り囲んで、きゃあきゃあと盛り上がっている。そんな様子をバーナビーは愛想笑いで見つめて、そうですと頷いた。

「誕生日パーティ開くの?私、バーナビー君の誕生日行きたいなぁ!」
「あ、ずるーい!私も私も!」

バーナビーの周囲で甲高い声が溢れる。バーナビーはそんな彼女たちに嫌な顔一つせずにこりと微笑み、誕生日パーティはしないんですよと答えた。
バーナビーの家の事情を知らない少女たちは大きな瞳をぱちくりと瞬かせて、残念そうにする。けれども彼女たちは、それなら私たちがバーナビー君のパーティーを開くと大きな声で言った。バーナビーは少女たちの軽率な発言に表情を無くすが、それも一瞬で。作り笑顔を浮かべたバーナビーは少女たちになるべく嫌われないように丁寧に断りを入れた。

「誕生日の日は他に用事があるんです、だから今度、パーティをするときに誘いますね?」
「ほんと?約束だからね、バーナビー君!」
「絶対、ぜぇったいだよ!」

バーナビーがもう一度頷くと、少女たちはお洒落しなきゃと喋りながら彼から離れていった。バーナビーはほう、と安堵のため息を吐き出して、最近仕事で忙しく走り回っている自分と暮らす、虎徹の姿を思い浮かべた。


彼女との出会いは去年のクリスマスだった。
両親を何者かに殺害され、燃え盛る家で気を失ったバーナビーを救い出してくれたのがヒーローを目指していた虎徹だった。
彼女はバーナビーが目を覚ますまでずっと側に居てくれて。そして、彼女はたった一人残された彼の側に居たいと言ったのだ。それを支援したのがバーナビーの父の友人であったマーベリックだった。マーベリックと虎徹は少しだけ面識があり、多忙な彼は彼女なら信頼出来るとバーナビーを任せたのだ。
バーナビーは当初、自分を助けただけの赤の他人を受け入れることが出来ずに何度も冷たく当たっていた。
だが、彼女と暮らすうちに、彼女の大切な人もバーナビーの両親の事件に巻き込まれていたことを知った。
彼女はバーナビーを助けるために燃え盛る家の中へと飛び込み。その結果、彼女の大切な人は家の前で犯人と接触した。そして。
彼女がバーナビーを抱えた瞬間、一発の銃声が彼女の大切な人の命を奪ってしまったのだ。
なんという皮肉なのだろう。
しかし虎徹はバーナビーを責めなかった。反抗し暴れるバーナビーを、ただ優しく細い腕で包み込み、大丈夫だと、俺が側に居るからと、そう言ったのだ。
だから、バーナビーは彼女を受け入れようと、そう思った。側にいようと、守ろうと誓った。例え、今は守られる立場であろうとも、いつかきっと。
けれどもやはり、自分は子供で無力だと常々思う。
今だって彼女は仕事とあの日の事件のことで駆けずり回っていると言うのに、自分はぬるま湯のような当たり前の平穏に浸っている。

(早く、帰りたい……)

誕生日だってそんなもの必要ない。たった一歳年を取ったから、何だと言うのだ。
一歳年を取ったからって、事件の真相なんて追えない。虎徹を守ることも出来ない。少し身長が伸びるかもしれないが、それでも彼女の背にはまだ、届くことはないのだ。


「バーナビー君、迎えに来たよ」

そう思うと無性にこの声の主に嫉妬と焦燥を覚える。
短い銀色の髪と色白の肌を持つ青年は慣れた様子でバーナビーの担任に会釈すると、教室へと入った。

「ユーリ、さん……」
「虎徹は仕事でお迎えに行けないから、僕が迎えに来たよ」

バーナビーは鞄を肩に提げると、担任の先生に挨拶する。ユーリはバーナビーと手を繋ぐともう一度軽く会釈し幼稚園を出た。
外はもう暗く、ハロウィンのイルミネーションがあちらこちらで輝いている。そんな様子をぼんやりと見つめていると、銀色の髪がオレンジ色に映えて視界に入った。ユーリの髪だ。
バーナビーはひょろりと長いユーリの姿を見遣った。骨張った指先に浮き出た背骨を見つめて、虎徹が太らない体質が羨ましいって話をしていたことを思い出した。しかし、バーナビーも虎徹とは違った羨ましさを彼に持っていた。
虎徹よりも高い身長。彼女と並んで歩く姿はまるで恋人のように映る。虎徹は意識していないが、ユーリの虎徹を見つめる眼差しはいつも優しくて、バーナビーはそんなユーリの眼差しを見る度にズキズキと胸を痛め、嫉妬や焦燥で心が埋もれてしまう。
彼女の側にいるのは僕だと大声を出して。それこそ癇癪を起こした子供のように暴れたいと思う瞬間だってある。それをしないのは、彼女の心が自分にあるというほんの僅かな優越感からと。自分を精一杯大人に見せたい意地からだった。
不意に、ユーリがこちらを向いた。バーナビーはとっさに視線を逸らして、キラキラと光るイルミネーションへと視線をやる。
ユーリは先程まで見られていたことに気付いてないようで、バーナビーと同じようにイルミネーションに目をやり、そういえば、と唇を開いた。

「明日はハロウィンだね。確か、バーナビー君の誕生日だって虎徹から聞いたけど、明日はどうするんだい?」
「……虎徹さんはお仕事で忙しいからきっとそれどころじゃないと思います。この時期ってヒーローの特集とか多いから、アシスタントの虎徹さんも寝ずに走り回ってますよ」
「そうか。なら、僕の家でパーティまで行かないけど、ケーキくらい食べないかい?」
「……」
「母さんが張り切って作ってるから、少しでも量を減らしたいんだ」

裏表などないユーリの頼みにバーナビーはわかりましたと小さく頷いた。どうせ、誰も居ない我が家に一人で居ることなど虎徹は快く思わないから、バーナビーは必然的に彼の家にお邪魔しなければならない。
バーナビーはユーリに気付かれないようため息を吐き出すと、オレンジや黒のカボチャやコウモリのイルミネーションへと緩やかに視線を戻した。





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