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短編
同じ世界を繰り返す話

鉈少女が出てくるゲームとか某マフィアの未来編でこういう能力持ってるキャラいるよねー。
と思って書いてみた。
救われないお話なので苦手な方は注意。





大事なものを必死に守ろうと何度この両手で握り締めようとも、簡単にこの手から滑り落ちることを知っている。
だから、僕は何度だって繰り返すのだ。


されど、繰り返しその悲劇は起きる。




僕にハンドレッドパワー以外の能力があることに気付いたのは、彼の死がきっかけだ。

初めての世界で、彼は僕の相棒だった。
熱血でお節介で、馬鹿で天然でおじさんで。
人の痛みをまるで自分の痛みのように感じる、そんな人だ。
僕はそんな彼を最初、疎ましく感じた。
自分の理想を押し付ける、そんな人間だと思っていたからだ。
だから、僕は合わないと思っていた。
けれど、彼の本心に触れて、僕の本心に気付かせてくれたのは紛れもなく彼だった。
僕は、彼に本心を隠しながらも、彼自身に惹かれていったんだ。
そう、あの人は僕の唯一掛け替えのない人。
僕を救い出そうとしてくれた、僕の理解者。

それなのに。
僕は、犯してはならない罪を犯してしまったんだ。


その日も、今日のように曇っていて天気予報は降水確率を80%も超えると予報していた。

僕はウロボロスという蛇の紋章を手に付けた人間を、長期に渡る捜索の末に見つけ出し接触した。
接触、それは違う。
紋章の男が僕の前に現れたのだ。
男は僕を見て嘲笑った。全てを失う気分はどうだ、と。
僕はらしくもなく、カッと血が昇った。
全身が怒り任せに脈を打って、殺してしまえと叫ぶ心がドクドクと痛い。
たまたまその日、一緒に行動していた彼が僕に落ち着くようにと声を荒げるが、視界が真っ赤になった僕にその声は届かなかった。
僕はただ、闇雲に復讐と云う言葉に捕らわれた。
法的な裁きでなく、僕の自己満足という結果で。
だから、僕は今後何度も後悔することとなる。
両親の死を、目の前で見たときのように。

パラパラと降りだした雨は、雨脚を強めて僕に降り注ぐ。
真っ赤だった視界は、僕のものでも、紋章を付けた男のものでもなかった。
僕を抱きしめている腕は褐色の見慣れたもので、僕の肩に埋める頬も微かに香るタバコの匂いも、頭では理解していた。
けれどもその先に追いつかない。

お前が突っ走ってどうするよ。
そう、声が聞こえたような気がして、僕はすみませんと言った。声は出なかった。
ったく、そんなんだから俺はお前が心配なんだよ。
そう言って彼の笑う声がどうしてか穏やかで、首を振った。
ベストの布地を掴もうとして焦げる匂いと熱さに僕は身体を震わせた。
嫌だ。
誰にも言ったことのない、子供の様な駄々を吐き出して、もう一度首を振った。
どうしておじさんが。
思考がとうとう追いついて、拒否反応を起こしながらも僕の中へと入りこんでくる。
まるでナイフのように僕の胸を抉り、まるで業火のように僕の身を焼く、現実が忌々しく禍々しく僕を責め立てた。

彼の背中から伸びる凶器は僕の手にぬるりとした違和感を与えて、喉が震えた。
確かめようと凶器に触れれば、咳き込む彼が血を吐き出した。
お前が、道を誤らずにすんで、よかった。
ぽんぽんと背中を幼子をあやすように叩かれて。
そして、彼の手はだらりと重力に負けて、落ちた。
緩やかな脈が、温かな体温が、止まり冷めていく。
何もかも嘘だと叫び出したかった。
彼が死ぬはずないんだと喚きだしたかった。
それなのに喉は異様に乾いていて、息さえ吐き出すのがやっとだった。

お前はまた守れなかったんだな。と男は言った。
その目には何の感情もない、まるで空っぽだった。
僕は獣のように唸り声を上げて、力なんて関係ない、ただ蛇に飲み込まれる事を恐れない哀れな小動物のように飛びかかった。
殺してやると叫んだかもしれない、けれど僕は声を無くしたままで力を解放した。

そんなものでは何も守れませんよ。

僕の声で、誰かが笑った気がした。
僕は男の首を引き千切ろうと力を込めた。
けれども白い光が視界を覆って、遠ざかる。

望んだのは、こんな結果ではないでしょう。

それが、彼の死と共に目覚めた僕の能力だった。


何度も同じ時間を繰り返す、まるでパラレルワールドのような世界に、僕は居た。
もちろんそこには彼も居て、Nextという存在もいる。
だけれど違う、彼は一緒で別人で。
僕も一緒で別人なのだ。
彼が死んだあの時から、僕は何度も同じ世界をやり直してると言っても良い。
全てが、少しずつ違う世界。
ある時は僕がヒーローじゃなかった、ある時は彼がヒーローじゃなかった、ある時は僕が犯罪者で、ある時は彼が迫害者だった。
けれど必ず僕は彼と接点を持ち、彼を守れず、自らを後悔と共に殺すのだ。

そうして何度も僕の声で誰かが言うんだ。


「ニーちゃん、バニーちゃん?おい、バーナビー」

ポツポツと降りだした雨の中、ぼうっと佇む僕の姿に眉を寄せるのは何回目の世界の彼だろう。
もう数えることも放棄してしまった僕は、ただ無言で彼を見つめていた。

「どうしたんだ、濡れるぞ?」

彼はそう言って僕の手を引いて、屋根のある建物の前まで走った。
僕は操り人形のように彼に為すがままで濡れた髪を何処から入手したのか、タオルで拭ってくれた。

「どうしたんだよ、本当に。お前らしくないな」
「…少し、思い出してしまったんです。昔の事を」
「何だ?ご両親の事か?」

いえ、貴方のことです。
なんて言えずに僕は言葉を飲み込んだ。
ただ彼の腕を引いて、人気がないのを良いことに、彼の肩口に顔を埋めた。

「おいおいおい、ほんとにどうした?体調でも悪いのか?」
「…そうやって、いつも貴方は僕の心配ばかり…」
「…説教デスカ」
「違います。僕は…」
「……?」
「やっぱり、体調が悪いのかもしれません。暫く、肩を貸して下さい」

耳元で僕の心配をする声を、熱を感じる。
僕はそっと瞳を閉じた。

今度こそ、貴方を守りたい。
貴方を、死の連鎖から解放したいのです。
































早く、気付いてくれよ。
簡単なんだ。簡単なことなんだ。

誰かが言った、切実に願う声だった。

頭が堅いんです、きっと無理でしょう。
ほら、もうすぐ1%の希望ですら、絶望に変わりますよ。

誰かが言った、嫌悪する声だった。






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