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短編
たとえ世界が、



世界に裏切られ、仲間や家族、そしてパートナーにさえ敵とみなされた彼の真実を知るのは私だけだ。
それが彼を苦しめ苛むものだとしても、同じ憎しみを抱く存在として傍に居る彼の姿に私は真実に歓喜で胸を震わせた。
彼を唯一守り助ける存在として自分が居る。
それはまるで昔からある正義のヒーローのようで私は唇を歪ませて笑った。
信じたもの全てに奈落の底に落とされて、彼の心は斬り裂かれた。
今の彼はとても不安定で、私がいなければきっと壊れてしまうだろう。それほどに彼は追い詰められているのだ。

「ゆーり…ユーリ、」

寝室から私の名前を呼ぶ声が届く。
私は彼に甘い甘いホットミルクを、睡眠薬を混ぜこんで。彼の元へと向かった。
扉を開けて薄暗い部屋の中と入ると、彼はベットの中へ潜り込んで身体を丸めている。
カーテンの隙間から入り込む淡い月の光が私の銀の髪に反射して、私の姿を捉えた彼は緩やかに上体を起こすと、まるで幼子のように私の服の裾を引いた。

「どうかしましたか、虎徹さん」

ホットミルクをベットの脇の棚に置いて、私は彼の漆黒色の髪を優しく梳く。
その動作に彼は金色の瞳を伏せて、そして私の腰へと腕を回した。
腹部に額を寄せて、安堵の吐息を吐き出す。その動作に恐い夢でも見ましたかと頭上で囁いた。

「バニーが、俺を殺すって言うんだ?俺が、憎いって…両親の仇だって言うんだ」

ぽつりぽつりと口にする彼の言葉は震えて掠れていて、私はまたあの日の夢を見たのかと小さく吐息を吐きだした。

「あなたは何も悪くありませんよ。悪いのは全てあなたを悪に仕立て上げた世界と、彼らです。もう、忘れてしまいなさい」

彼らのことなど。
私がずっとあなたの傍にいますから。
優しく耳元で囁いて、私は彼の隈を色濃く残した目尻にそっと唇を落とした。
そうすれば彼はほうと安堵の吐息を吐き出して、そして安心したように私に身を預ける。

「さあ、もう一度寝ましょう。まだ朝まで時間があります、ほら、あなた好みの甘いホットミルクを持ってきましたから。これを飲んで」

こくりと小さく頷く彼の背を撫でて、私は棚に置いた甘ったるそうな白の入ったマグカップを彼に渡した。
温度の低い私の手からそのマグを受け取って、彼は戸惑いなく白い液体に口を付けた。
何度か喉仏が下がるのを見届けて私は空になったマグを返してもらうと、彼の上体をベットへと横たわらせた。
緩やかに瞬きされる金の瞳を見詰めて私は小さく微笑みかると、彼はそっとおやすみと呟いて瞳を閉じた。

「おやすみなさい」

私は彼の頬を擽る前髪を掻き上げて、寝室を後にした。
そして、寝室に鍵を掛けた。



私の愛しい虎徹さん。
もう誰にもあなたを渡したりはしません。
例えあなたのパートナーが記憶を戻して、あなたを前に赦しを被たとしても。
世界があなたの真実に気付いたとしても。
だから、だから、その前に。

「真実を知る者全て消してしまおうか」

どうせ、奴らは私の正義に反する者たちだ。
何も問題ない。

全て。
全てが終わったら。
あなたはあなたを裏切った世界を忘れて、私だけを想って。
私のヒーローとして生きればいい。











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