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短編
指輪の話

※ヤンデレバニー、痛いお話なので苦手な方は注意!







あなたの左の薬指に光るその戒めをどうしようもなく噛み千切りたい衝動に駆られる。
そんなことをあなたに言えばあなたは目を丸くさせて、頬の筋肉を強張らせ動揺し、そしてそれが嫌がらせだと勘違いを起こして、何恐いこと言ってるんだよバニーとへらりと間抜けな面で笑って見せる。
そんなどうしようもなく間抜けなあなたが愛おしいのだけど。
もしこれが嘘や冗談ではないと知ったら、あなたはどうするのだろうか。
試したい。確かめてみたい。
そんな常識的にはあり得ない愚かな衝動に駆られて、僕はあなたを壁際へとじりじりと追い遣った。
金色の瞳が戸惑いの色を浮かべて僕を見詰める。
どうかしたか、何かあったのか。
そう疑問を口にする虎徹さんの左手を取って僕は自分の口元へと持っていく。
心地良い低音が抗議の声を上げて僕から逃げ出そうとする手の平。僕はその手が逃げないように強く強く握り締めた。
ギロリと睨みつけてくるあなたに僕は小さく微笑みかけて、そっと手の甲にキスを落とした。
ビクリと手が震えて、やめろと言う声が耳に届く。
僕はその言葉を無視したまま左手の指輪をベロリと舐め上げた。
その行動に先程の言葉が本当だと理解したあなたは僕の肩を掴んで僕から離れようと暴れ始めた。
ハンドレットパワーを使って逃げ出せば良いのにと僕は唇を歪めて笑い、そう言えば彼は何だかんだ言って僕を拒めないお人好しだったと思考する。
可哀想に。僕の愛しの虎徹さん。
こんな歪んだ愛しか持ち合わせていない男に好きになられて、愛されるなんて。
でも、あなただってどこか悪いところがあるんですよ。
両親が殺され孤独の世界で生きてきた僕にお節介なんて焼くから。
本気で抵抗してもハンドレットパワーを使わないあなたを押さえつけて組み敷くことなんて容易いこと。
若い肢体には適いませんよ、虎徹さん。そう耳元で囁けば、泣きそうなそんな表情で僕を凝視してくる。
ああ、何て素敵な顔をするんだろう。僕はベロリと舌なめずりして、勃起してしまいそうだと心の中で呟いた。
彼の細い両足の間に片足を入れて抑え込み、暴れて逃げないように壁に身体を押し付ける。
片手で器用に虎徹さんの口を塞いで、もう一度耳元へ唇を寄せて、愛していると。
そうして彼の耳から離れて、握り締めたままの左手の薬指へと顔を近付けた。
カタカタと震える愛おしい虎徹さんの薬指に嵌められた指輪を唇でゆっくりと引き抜く。
その指輪は引き抜いたと同時に僕の口から滑り落ちて重力に従い地面に落ちていった。
金属が床に触れる独特の音が聞こえる。
彼はその指輪の落ちる起動を、転がって行った場所を見詰めて肩の力を抜いた。
そんな虎徹さんに些細な行動が気に入らなかった僕は彼が力を抜いた瞬間に薬指に歯を立てて思い切り噛みついてやった。
くぐもった声が彼の口から吐息と共に吐き出される。
痛みを遣り過ごすように歯を噛み締めて息を吐く虎徹さんの姿がとても煽情的で官能的でたまらない。
徐々に歯に力を加えれば虎徹さんは額に汗を浮かばせて、耐え切れないのか金の瞳をぎゅっと強く閉じてしまった。
ポタリ、ポタリ。
彼の薬指から熱い液体が滴り落ちて地面に広がった。血だ。
僕は床に広がった赤を勿体ないと感じながら虎徹さんの節くれだった男らしい指を舌で舐め口で吸った。
とても、甘い。
虎徹さんの鮮血はとても甘美で僕はまるで赤ん坊のように、彼の甘やかな血を逃さないように口内へとおさめ、飲み込んだ。
そうしてもっともっとと彼の指に歯を立てた。
柔らかい肉を引き裂き、真珠のように輝く白い骨へと行きつく。
とうとう虎徹さんは痛みの限界を超えて、瞼の縁から透明な雫を零した。
もう、やめてくれ。そう僕に懇願した。
絞り出した声は掠れていてとてもいやらしく聞こえて、僕はそんな愛しいあなたの要求を聞いて薬指に食い込んだ歯をゆっくりと引き抜いた。
僕の唇から漸く解放された薬指にはくっきりと癒えることはないであろう傷痕が残っている。
僕はそれを見詰めて満足気に笑うと、彼は薬指を庇ったまま、震える指先で転がり落ちたまま放置された指輪を拾い上げた。
大事そうに指輪を握り締める虎徹さんの姿に、僕の嫉妬はまた醜い炎を燃え上がらせる。
僕は彼が拾い上げた銀色に輝くエンゲージを横から奪い取って指先で摘まむ。
このとき僕は無意識にハンドレットパワーを使っていたのかもしれない。
虎徹さんが僕を見て異常に怯えていたから。きっと指輪を潰されると危惧したのだろう。
ああ、何て愛らしい人だ。
とてもとても、誰にも見せたくないと思うくらい。

ねぇ、虎徹さん。

彼は金色の瞳を僕に向けて睨んでくる。その瞳に映る僕がとても幸福そうだときっとあなたは気付かないでしょうね。

この指輪、大事なものでしょう?

虎徹さんの身体が大きく揺れて、唇が震えている。
でもあなたは僕に従うしか方法はない。抵抗など、出来る筈もない。

もう、付けねぇよ。だから。
返してくれと懇願するあなた。
苦しくて辛くて僕の行動に表情を歪ませる愛しい人。
好きです、好きです、愛してます。そんな言葉じゃ足りないくらい。
あなたを監禁して、大事に大事に誰にも見せずに、僕だけを見ていて欲しいんです、あなたを愛しているんです虎徹さん、好きで好きで仕方がないんです。ずっとぼくだけの虎徹さんで居て、僕だけを見て僕の傍にずっと。
だから。
あなたを縛る鎖は要らないでしょう?

パキリと指輪にヒビが入り粉々に砕け散る。
その音があなたと僕の世界に美しく響いた。







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