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短編
僕を照らす




彼が居なくなって初めて出動要請が出た。
銀行で強盗を行い、人質を取って犯人は銀行内に立て篭もっているという。
ヒーローにとって見せ場の多い事件で、僕はまず人命救助だと声を荒げる虎徹さんを思い浮かべて小さく頷いた。
そう。
いつまでも絶望に浸っている暇なんてない。
こんな僕を虎徹さんは見守ってくれはしない。

「…バーナビー」

不意に声を掛けられて、後ろにアントニオさんことロックバイソン先輩が立っていることに気付いた。
彼の姿を捉えて僕の胸はツキリと痛む。

「大丈夫か…?その、虎徹が居なくなってからお前の様子が変だと他の連中からも聞いててな…」
「…すみません。ご迷惑をおかけしていたみたいですね。…もう、大丈夫です」

僕ははヒーローマスクを上げて、ロックバイソン先輩に表情を見せて笑った。
やつれた僕の顔は先輩の目にどう映るのかわからなかったけれど、あの日、彼が居なくなってしまった日よりも僕はきちんと生きている。
そう、彼に。虎徹さんの親友に知ってもらいたかった。

「僕がいつまでもこれでは、駄目でしょう?虎徹さんに笑われてしまいますから…」

この広い街の中の、ヒーローの活躍を映すテレビの一つを、彼が見ているのならば。
情けない姿は見せられない。
僕はヒーローだから。
市民を守る、ヒーローなのだから。

「本当に、お前は変わったな…」

ロックバイソン先輩はそう言って安堵の息を吐き出して笑った。
僕はあのお節介な人のお陰ですよと呟いて、マスクを付け直した。


銀行内では犯人は三人、人質は十数人。
スカイハイ先輩が先陣を切って風を操り、犯人を混乱させた後に僕や他の先輩方が人質の救助を行うといったものだった。
人質を無事救出出来るかが今回のポイントで、僕は初めて虎徹さんの居ない出動で緊張していた。
昔ならきっとそんなことはなかっただろう。
それほど、彼が居ないだけで状況が変わるのか。

不意に犯人の一人がスカイハイ先輩の風を掻い潜り、人質だった女性に拳銃を向けた。
僕のハンドレットパワーでも届くか届かないか微妙な距離で、彼女は腰を抜かしているのかその場に座り込んでいる。
僕は声を上げた。
手を必死に伸ばして、放たれた銃弾を追う。
しかし銃弾は僕の身体よりも早く、彼女の身体を狙い。
そして。

見慣れた光が視界を捉え、女性の身体を包んだ。銃弾は壁の中へと収まり小さな穴を作る。
地面に舞い落ちた緑と白のハンチング帽に僕は息を詰めて。ドクンと胸が高鳴った。

「虎徹、さん…」

思わず口にした言葉に我に返って僕は首を左右に振り、人命救助を続けるため身体を動かした。
会いたい。会いたい。
その気持ちが心の中で溢れてしまいそうになったけれど、僕はヒーローとしての行動を忘れることはなかった。

無事に人命救助と犯人確保を終え、僕は彼の愛用のハンチング帽を拾い上げて彼の行方を探した。
しかし野次馬が多くて中々彼を視界に捉えることが出来ない。
僕は思わず舌打ちをして目を凝らした。
きっとまだ、この近くに居る筈だ。
そうしてもう一度周囲を見回して、僕は彼の後ろ姿を見付け出し。
彼の後ろ姿を捉えて僕はヒーロースーツのまま、彼の元へと走り出した。






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