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短編
stardust



離された手に気付けなかったのは、自分自身のことで精一杯だったからだ。
そんな言い訳を連ねても、結局気付けなかった僕自身が悪くて。

けれど。
いつだって彼は僕の傍にいてくれて、いつだって彼は僕を支えてくれて。
それが当たり前になって。
彼がどこかへ居なくなってしまうなんて考えたことすらなかった。
彼に限って僕を見捨てるなんて思っていなかったし、彼にとってヒーローというものは生き甲斐で存在理由なのだ。
そう。
ヒーローじゃなくなった自分を彼自身もきっと、考えていなかったと思う。

しかし、彼は僕の前からヒーロー界から姿を消してしまって。
そうして彼から繋がれた手は彼から離されてしまったのだ。
一言も、僕に告げることなく。

僕は彼が居なくなって、彼がネクストとしてその能力が減退しているということを初めて知った。
ネクストとして生きる者に稀に起こるケースで、それはまるで星が消滅するときのように光が一瞬強く輝き、そして消え去ってしまうのだという。
彼はあらゆる手段を探して能力の衰えをどうにかしようとしたという。
しかし元々ネクスト自体が特別な存在で、それ以上に減退というものが起こることは少なく。
彼はなす術はなくなっていったのだ。

彼はとうとう自分の能力の限界を知って、誰に告げることなく去っていったのだ。
否。正確には誰にも、ではない。ロイズさんやアントニオさんといった上司や親友にはある程度話しはしていたらしい。

それでも一番身近に居た僕が彼の異変に気付かず、彼の優しさに頼ってばっかりだったという事実に、自分自身への憤りを感じ。
そして、彼に裏切られたような、捨てられたような、そんな絶望感に襲われていた。
どうして言ってくれなかったのか。どうして僕の前から消え去ってしまったのか。
そう考えれば考えるほど、自分の非を棚に上げて彼を恨まずにはいられたなかった。

たった一人の、大切な人が居なくなって、僕の世界には誰も居なくなった。
彼が与えた満ち溢れた日々は色を失くし、モノクロ―ムが世界を包んだ。

それでも。
街中で彼の姿を目で捜すのはやめられない僕がここに居て。
そして、彼に似た後ろ姿を見付けては彼の名前を呼んで。ここに彼は居ないんだと僕は知る。
そうやって何時間も立ち尽くして、彼のお節介だとか、彼の癖だとか。
彼とここでくだらない遣り取りをしただとか。
思い出して不意に涙が零れて、情けないと僕は自嘲を浮かべた。
でも、もし。もしも。彼に会えるのならば。
もう一度、彼の名前を呼んで、今度は僕からその手を握り締めて、繋いで。
もう離れないように、ずっと傍に居て欲しいなんて言って。
彼は優しいから。
その弱味に付け込んで、あなたの映る鮮やかな世界を僕はもう一度、見詰めていたいんだ。
だから、どうか。
もし、奇跡というものがあるのならば。
あなたともう一度、巡り合わせて欲しいんだ。







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