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短編
宇宙人と博士の話

アンケートしました宇宙人と博士の話、のサンプルみたいなものです。





今日は何て良い天気なんだろう。
虎徹はそう思い陰気漂う研究室のカーテンを開き、窓の外へと顔を覗かせた。
こんなに良い天気なのに部屋に引き籠ってじめじめしているのは性に合わないと、虎徹は研究生たちに一声かけて散歩へ出かけるべく白衣のポケットに携帯電話と財布を突っ込んだ。
春から夏にかけてだんだんと暑くなるこの季節、虎徹はちょっと暑いなと顔の上で右手を翳し、空を仰いだ。
太陽が真上にあることに気付いて虎徹は愛用の時計を見た。
時間を見ればお昼になったばかりで、虎徹は散歩の前にと、お気に入りのバーガーショップでバーガーとポテトそしてペプシを買った。
店内で食べようかと周囲を見回すと、やはりこの時間は人が多い。虎徹はそういえば近くに公園があったなと、自分の中で目的の場所の地図を描き、店員さんに紙袋を用意してもらうと店内を後にした。

(確かあの道の角を曲がって…)

フンフンと上機嫌に鼻歌を歌いながら虎徹は角を左へと曲がる。
するとそこには人だかりが出来ていて、虎徹は小首を傾げた。
通り過ぎようと前へと進むが人が多く、虎徹は仕方なく立ち止まり野次馬の一人に何があったんだと尋ねた。

「ああ、空から何か降ってきやがったんだ」

見たことのないもんだぜ、と言う野次馬の言葉に興味を持った虎徹は、白衣のポケットから博士である自分の身分を証明するカードを取り出した。
それを周囲に見せ、すみませんと声を掛けながら虎徹はその人だかりの先に進んだ。
野次馬を抜け、虎徹は落ちてきたというものを見た。
それは黒々と光る金属製の筒状のもので、そこから無数の細い針の様なものが伸びている。
虎徹はその金属の元へと近付き、見たことのない存在に目をぱちぱちと瞬かせた。

「また凄いのが降ってきたな…。怪我人が居なくて幸いだ…ん?」

虎徹はズボンの尻ポケットある携帯の振動に気が付いて電話に出た。
声の主は幼馴染で警察官をやっているアントニオからだった。

「虎徹、お前今研究室か?実は何かよくわからんが空からデカイが降って来たって通報があってだな…」
「あー、俺今、調度それの前にいるわ」

携帯を肩と耳で器用に挟み、紙袋を小脇に抱えた虎徹は、白衣のポケットに手を突っ込み、手袋を取り出すと器用に装着した。

「なあ、お前が来るまでにちょっと調べて良い?」

好奇心に満ち溢れた虎徹の声が携帯越しにアントニオに伝わる。
アントニオは虎徹のその声に、呆れたような溜息を吐いた。

「…危険なものだったらすぐに離れろよ。俺も直ぐそちらに着くから」

おう、と虎徹は頷いて携帯を切った。
足元に昼飯の紙袋を置いて、虎徹は漆黒色に光る金属へと手を伸ばした。
触れた瞬間ビリッと静電気のような軽い痛みを感じて虎徹は反射的に手を離した。

「…電気…?」

虎徹は首を傾げて先程よりも慎重に金属を指先で突いてみる。
今度は痛みを感じることなく、金属特有の冷たさが虎徹の手に伝わった。
虎徹は金属に手を這わせて窪みがあることに気付いた。それはよく見ると扉のようになっており、右上にボタンのような突起物がある。
虎徹はそのボタンを押そうと、背を伸ばす。
少し高い所にあるボタンは成人男性よりも背の高い虎徹でも手が触れるかどうかの位置だ。

「虎徹!」

不意に声を掛けられて虎徹は手を下ろした。
人ごみを掻きわけて現れた巨漢の男、アントニオの姿に虎徹はようと声を掛けた。
アントニオは部下に野次馬を散らせろと指示を出すと虎徹の傍へと駆け寄った。

「どうだ?何かわかりそうか」
「んー…、一応。何かの乗りもんだっていうのはわかったんだけどな」
「乗り物?」

アントニオは黒々とした金属を怪訝な顔つきで見詰める。
虎徹は大きく頷いて金属をコンコンと叩いた。

「どうする?開けてみるか」
「……虎徹は、どう思う」
「別に、大丈夫だろ」

あ、でも宇宙人が出てきたりしてな。とにやにや笑う虎徹に、アントニオは苦笑を漏らし開けてくれと言った。
虎徹は踵を上げて背を伸ばし、扉の右上にあるボタンを押すとプシュッと気圧の変わる音が耳に届き緩やかに扉が開いた。

「本当に、乗り物みたいだな」

アントニオが呟くと、虎徹は誰も乗っていないなと金属製の乗り物の中へと身体を突っ込んだ。
アントニオは虎徹の行動に驚いて彼の来ている白衣を掴んで中へと潜り込もうとする動きを止めさせた。

「んー…、俺にはさっぱりだな。こういうのは」

ゴソゴソと中を荒らす虎徹にわからないなら中へ入るなとアントニオは叱咤の声を上げた。
ふと彼の白衣が黒ずむのを見たアントニオは視線を下に落とした。

「おい、虎徹。お前の白衣に何か付いてるぞ」

アントニオは虎徹を乗物から引っ張り出して黒い液体の付いた白衣を見詰めた。
虎徹はその液体を手袋で拭い、鼻に近付け臭いを嗅いだ。
鉄の臭いがする。これは。

「…これ、血だ。アントニオ」
「だが、誰も乗ってないし、そもそも黒い血なん…「どっかで、落ちたんだよ」

虎徹はアントニオの言葉を遮って、直ぐに走り出した。
アントニオは急に走り出した虎徹の名前を大声で叫んだが、彼には全く聞こえてはいなかった。

「乗り物が落ちているなら近くに居る筈だ…じゃないと帰れないからな」

虎徹は人気の少ない民家の周辺や路地を捜した。
怪我をしているならきっと見付からないように身を潜めているはずだ。

「………これは、」

通り過ぎようとした道で虎徹は足を止めた。
黒い液体が点々と落ちていてまだ乾いていない状態で地面にあった。
虎徹はそっと足音を立てないように血の付いた道を歩く。暫く真っ直ぐに進むと細い脇道を発見し、薄暗いその道を目を細めて覗き込んだ。
虎徹は壁に凭れ掛る黒い影を捉えてごくりと息を呑み込むと細い道に足を踏み入れた。

黒い影は虎徹に気付いていないのかぐったりとした様子だ。
虎徹は急いで黒い影の元まで辿りつくとその場にしゃがみ込んでその姿を見詰めた。

「…人間、か?」

姿形は人間だった。否、人間に近いものだと言った方が正しいのかもしれない。
色素の薄い髪と肌。人のものに比べれば少し長い耳と爪。その身を覆う黒と赤の鎧のような衣装からは黒い鮮血が溢れ滴っていた。
虎徹は傷口を確かめて、研究室へと電話を入れた。応急処置の出来るものと車を頼むと簡潔に述べると携帯を放り出し、自ら着ている白衣を脱いで破った。
破った白衣を止血するために彼の鎧の上から巻き付け、強く縛った。そして、他に外傷はないかと腕や足の関節を動かして確認した。

「…こっちは、大丈夫そう、だな」

どうやら骨は折れていないようだ。ほっと安堵の息を漏らし、虎徹は顔を上げた。

そうして彼のエメラルドグリーンの瞳がこちらをじっと見詰めていることに、虎徹は初めて気付くのであった。







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