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短編
頭痛の話




手元から滑り落ちる錠剤を見詰めて、らしくないとバーナビーは思った。
ガンガンと頭が揺れる中、転がり落ちた錠剤を拾い上げて通常より熱い溜息を吐き出した。
身体が重くだるい。動かすのも億劫になる。

「よっ、バニーちゃん」
「……」
「ん?どしたよ」

最近、バーナビーの生活習慣に馴染み始めた虎徹の低音が耳に届く。
鬱陶しいが、反論する気力もないバーナビーは無視を決め込み、そのまま虎徹の横を通り抜けようと歩き出した。
しかし、虎徹の腕に遮られて行く先を塞がれる。
バーナビーは緑色の瞳を細めて睨みつけたが、虎徹は肩を竦めるだけだった。

「バニーちゃん、顔真っ赤だぜ?しかもそんな覚束ない足取りで危ないぞ?」

どうやら自分が思った以上にフラフラしていたらしい。
心配そうに顔を覗き込む虎徹に、自分の情けない姿を見られるのが嫌でバーナビーは顔をそむけた。

「……貴方には、関係ないでしょう」

お節介も程々にしてください。
そう言葉を続けようとしたが、虎徹の手が壊れ物を触るように伸びてきて、驚きのあまり思わず黙り込んだ。
額に当てられた褐色の手が冷たくて心地良い。
ほう、と無意識に安堵の息を吐くバーナビーに、虎徹は熱があるじゃねぇか!と大声を上げた。
耳元で大音量が響いて痛む頭が更に痛む。
眉を寄せるバーナビーの姿にしまった、と口を噤んだ虎徹は、アタフタしながらもバーナビーを半ば引きずりながら職場にある仮眠室へと連れて行った。

簡易ベットへとバーナビーを寝かせると、虎徹は自分のポケットに突っ込んであったタオルを水で濯いで絞りバーナビーの額へ乗せた。

「一応洗ってるヤツだから」
「…一応ってなんですか…」

ははは、とから笑いする虎徹に、まぁ良いですとバーナビーは呟いた。

「…それより、いつまでここに居るんですか?」

いつまでたっても部屋から出て行かない虎徹にバーナビーが尋ねると、虎徹は目を丸くした。

「へ?居ちゃダメなの?」
「おじさんが居ると眠れないんです」
「あー…、でも、弱ってるときって人恋しくなるって言うだろ?」
「全ての人間が人恋しくはならないでしょう」
「んー…でもなぁ…」

虎徹は腕を組みながら考えている。
まだ何か問題でも?とバーナビーが尋ねると、先程のように虎徹の手が伸びてきた。
そっと眼鏡を外されてバーナビーは非難の声を上げたが、虎徹は聞く様子もなく大きな手でバーナビーの両目を覆った。

「こうされると、何となく安心するだろ」
「……」

掌から伝わる温度と脈が、確かに虎徹の言う通り安心感を与えてくれて、心地良い。

「暫くしたら、出て行くからさ。それまでに寝ちまえよ」
「別に…直ぐ出て行って貰っても構いません」
「はいはい。ほんと可愛げないね、バニーちゃん。じゃあ、おじさんの我儘で居る事にするわ」

喉を鳴らして笑う虎徹の姿を思い浮かべて、バーナビーはそっと瞳を閉じた。
少し、少しだけ虎徹の服の裾を気付かれないように握り締めて。





















自然と目が覚めれば、夕日が窓から差し込んでいる。
頭はまだぼんやりしているが、すっきりしている。
どうやら熱は引いているようだ。
そっと、傍らに眠る虎徹の姿を捉えてバーナビーは頬を緩めて笑った。
全く、おじさんも風邪ひきますよ。そう呟いて、
少しかさついた虎徹の唇に自分の唇を重ねた。






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