一人にしないで
「雷光、」
戸惑いがちに呼ぶその声に振り返った。
「…凜」
「何処行くの…」
彼女の瞳に映る僕は、血に汚れている。
何処へ行くかなんて、本当はもう分かっているんじゃないのか。
「灰狼衆に…、入るよ。さようなら、凜」
最後に君にだけは、会いたくなかった。
この姿を君にだけは、見せたくなかった。
「待って」
右手を掴む彼女の手は、微かに震えていた。
「私も行く。」
「…何を言って、」
「私も灰狼衆に入る。………お願いだから、一人で行かないで」
凜は清水家の惨状を見て、僕を追ってきたんだろう。
彼女は清水家の門下生の一人で、確か親はいなかった。
僕だけを頼りにしている彼女の手を、誰が振りほどけるだろう。
一人にしないで
この手を離せば、もう二度と貴方に会う事はないだろうと確信した。
(080811)
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