瞬間
私は右と言われて迷う事なく右を向けない。まず横目で左を確認してから恐る恐る右を向く。勿論、言った相手にも目をやりながら。
親がまず疑り深…否、用心深い人だったからその遺伝だろう。その私が今何故こんな状況にあるのかは私と彼と神様しか知らない。どんなに気を付けていても捕まる時は意外と呆気なく捕まるものだと思った。
「本来は分刀の仕事じゃないのだけれどね」
「なら帰して下さいよ」
私だっていつまでもこんな所にいたくないし、灰狼衆に捕まっただなんて誰かに知られたら私のエベレスト級のプライドに傷がつく。
だから取り敢えず誰かに見られる前に放してもらうか、出来ればもっと人通りの少ない所に移動したいし、こんな頭ピンクの人と一緒にいたら目立つじゃないか、これでも忍なのかこいつは。
「・・・で、君は何をしていたのかな?」
「答える義理はありません。大した理由じゃないですし」
・・・風魔や萬天にとったら、だけど。私にとっては大問題だ。
まず第一に私が彼をつけていた理由としては“壬晴が気になるから”。私はいつも雷鳴や虹一と行動している訳ではないから、壬晴と接触する機会が極端に少ない、寧ろ皆無。
二人は元気だった、というけれど私は自分の目で確かめていないんだ、気になって仕方ない。・・・目の前の彼も灰狼衆なんだし、壬晴の事、知ってるかな。ああ、でも敵に屈して訊かれた事を正直に話すなどと、それこそプライドに傷がつくというものだ。
「・・・・あの」
先刻まで何も言うまいと思っていたのに、自然と口からは言葉が出た。
「壬晴知ってます?六条壬晴」
「・・・君は壬晴君の友達なのかい?」
壬晴、君。
その言い方に多少違和感を覚えたが、そんなのは無視して私は頷いた。
「友達を心配してつけてきたというのかい?」
「ええ、まあ。あと(第二の理由に)あわよくば灰狼衆の秘密が漏れないかと期待もしていましたが主にそれです」
さらばプライド。
私はよく頑張った。
「壬晴君なら元気だよ・・・近い内に逢えるんじゃないかい。」
私は単純にも一瞬目を輝かせたと思う。ああ、分かり易い。恥ずかしい。何故そう言えるのかも分からないのに。
ピンクの彼は掴んでいた私の手首から力を抜いた。私は解放された手首を見て、ああ少し赤くなってるとか、私なら絶対に放さないのにと思いつつピンクな彼の顔を見た。
・・・筈が、もう彼は私の元を去り、私の瞳にはその後ろ姿だけが焼き付いて。
なんか次灰狼衆の後をつける時は理由が一つ追加されそうだ。敵の話を信用して手を放す甘さも奇抜な髪の色も好きになってしまいそう、だけど私と彼はよく考えると敵同士。山あり谷ありの波乱万丈な恋っていうのも悪くないかなあ、と私はその場に立ち尽くして考えた。
(081016)
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