趣味の悪い冗談ですこと





嗚呼、なんて素敵なのでしょう。毎日あそこで剣術の練習をしている男の子。まさか此れが噂にきく"一目惚れ"というものなのでしょうか!この地には此処が在る時から居ますけど、あんなに素敵な方はこれまでに見た事ありません。影からでも見る事が出来るから、今がどんなに幸せか!彼には妹さんがいらっしゃるようで、一度見た事がありますけどこれはまた可愛らしい妹さんです。彼が彼女を"雷鳴"と呼んでいたのでそれが名前なのでしょう。もし私が人間で、あの方と結婚する事が出来たなら私はあの子の姉ですのに。そんな事を考えれば気の遠くなるような長い時を生きてきた私ですら経験した事のないような胸の高鳴りを覚えるのです(人間は私が何万、何億年とかけて得るものをたった100年も経たぬうちに覚えるのでしょう?それってとてもせっかちな生き物ですね)。私とあの人は違うから、この恋が実る事が万に一つ、いいえ、億に一つあった所で悲しむのは私の方です。だからきっと今幸せな気分に浸っておいて、彼がいなくなってまた何万年という時を経て忘れてしまうのが一番でしょう。もしかして彼より素敵な方が現れるかもわかりませんし(そんな事があるとは今は到底思えませんけど)。













その日は何だか変な日でした。いいえ、その日だけではありません。だって最近あの人が見えなかったのです。だから、あの人の家が燃えているのを見た時、私は絶句しました。何度飛び出そうかと思いました。火事かと思ったから。誰だと思われても、あの人が今此処で死ぬ事だけは耐えられなくて。でも我慢して、火が消える事を、あの人が無事でいる事を、あの人の大切な人が無事でいる事を祈っていました。いつもの様に、影からそっと。心配しながら見ていると、彼が出てきました。嗚呼、良かった。生きていたのですね。駆け寄りたい気持ちで一杯ですけど、何とか止まり、出来るだけ近付いて彼の顔を見ようとしました。近付いて、顔を見るより先に悲しい事実を見ました。彼の手の刀、彼の身体の返り血。もしかして火を放ったのも彼だと言うのでしょうか。驚きのあまり私はその場で止まってしまいました。跡形も無くなってしまったあの家。私はその後、彼に会っていません。まず私は此処から離れる事など出来ませんし、あんな事があった後に彼を見ても私は以前の様に胸を高鳴らせて彼を見る事など出来ないでしょう。






























冗談ですこと










(080915)
ヒロインはその地の精霊とかそんな感じ。













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