刃
「凜…どうして」
「無理だよ…私はもう、戻れない」
「凜、」
「ごめんね」
そう言って凜は顔を上げた。
今まで見た事ない程、冷めた、哀しそうな瞳。
「ごめんね…私は誓った筈だったのに。
雷光が俄雨を斬ってしまった時に私は、決心した筈だったんだよ。
もう二度と辛い思いは、させないって」
それなのに何で、そう決めた私が貴方を苦しめる事になってしまうの。
凜は…彼女は、雨の音に溶けて消えてしまいそうな声で早口にそう言った。
再び彼女は俯く。
「辛い思いをさせるだけだと、わかってる。でも、」
再び俯かせたその顔を、また私の方に向ける。
冷めた、哀しそうな瞳じゃない…強い意思を宿す瞳。
そうだ、私は彼女のその瞳が好きだった。
君を裁く事は、したくなかった。愛しているから。
この夜は雨に流されて消えてしまえばいいのに。
「私を斬って。罪人の私を。恋人として、分刀として。斬られるなら、雷光―貴方がいい」
私が振るう刃は、二人の想いすらも断ち切ってしまうのだろうか。
幸せだった思い出すらも切り裂いて…辛い記憶に、変えてしまうのだろうか。
私が振るった刃は、彼女の罪を赦す為
(080623)
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