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波乱の予感(マイアイ)

「は?婚約?」
 例の取引に勝利した私、アイリーン=オラサバルは現在女王という位置についている。取引に勝ったのに何でと思うが、やれば出来るということを示したのが不味かったらしい。両親はあれ以来政務を放り出して旅行ばかりし、自然と私が代理を務めることになった。そして時は流れいつの間にか私を女王にという臣下の声が上がり、降りれば政敵として排除される可能性が出てきた。そんなわけで仕方なく私は女王という位置についている。
 そんな嫌々ながら女王をやっている時にとある国から縁談の話が入った。ルーンビナスという魔法で有名な国である。
「よりにもよってなんでウチにその話をもってくるのよ」
 我が国は犯罪大国と名高いギルカタールだ。主な産業は犯罪。そんな国の女王を妻にしたいとは政略とはいえ頭の悪い国王だ。恐らくは私に近づいておけば暗殺などの心配もなくなるとの魂胆かもしれないが、甘い。ギルカタールは【身内】に甘い。それは血縁や伴侶としての意味ではなく、血の繋がりも関係無く自らが身内と思うかどうかだ。つまり外国の王など赤の他人。身内として認めるはずがない。何かあれば事故と称されて始末されるのがオチだろう。
「で、どんな王なの?調べはついてるんでしょ」
「それが……どうやら王ではないようです」
「……王子か。へえ?このギルカタールに王でもない奴の縁談を持ち込むとはね。いったいどんな面して…………」
 書面を見て硬直した。王子の名、それはマイセン=ヒルデガルド。そうだ。ルーンビナスの王家の名はヒルデガルド家。忘れていたわけではない。ただマイセンとかいうあの男には結び付かなかっただけだ。まずあのマイセンではない可能性もあるが、どうにも嫌な予感しかしない。
「……この男の妹は誰かわかる?」
「アリシア=ヒルデガルド様でございます」
 さっと血の気が引いた。あの男がかつて言っていた自分は王子だという言葉は嘘ではなかったらしい。ということは隣にいたミハエルも悪魔かもしれないということになるのだが、この際そのことは置いておこう。問題はマイセンの方なのだから。
「……至急ルーンビナスに使者を送りなさい。マイセン=ヒルデガルドについて調べるのよ」
「はっ」
 他の部下も下がらせ玉座に倒れ込む。冗談じゃない。どうしてあの男が私と。かつての訪問はこのための伏せんだったのか。それならもっと私に好印象を与えようとするはず。それに何で今なのか。どうせ婚姻を迫るなら私が忘れない内に早く申し込むべきだ。数年経た今の意味がわからない。
「……あんたは何がしたいのよ」
 ここ最近は税務も起動に乗ってきたというのに。まさかこんなことでつまづくとは。それもこれも伴侶を未だ見つけていない自身の責任だからこそ腹立だしい。当たりどころがないためこの問題を起こした当人であるマイセンに苛立ちをぶつけることにした。
「マイセンの馬鹿、シスコン、変態、××××!」
 文句を言いながら先ほど放り投げた書類を手に取る。マイセン=ヒルデガルド。――の妹、アリシア。何故かわからないがそっちの方が興味を惹かれた。会ったこともない女性なのに、会わなければと思う。その訳のわからない衝動に首を傾げながら再度書類の要点を拾い出した。




10/6/6

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あきゅろす。
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