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代わりにさえできない(マイアイ)

ここ最近プリンセスが不安定なのは気づいていた。でも俺は、夜中に声を殺して泣いていることも知らないふりをしてきた。
はっきりとした理由なんか知らない。でも俺が関係していることはわかる。
気づくとプリンセスは俺を見ていた。最初はかっこいい俺様に見とれているのかと思ったが、その表情はそんな明るいものではなかった。何かを堪えるように唇を噛み締め、泣くのではないかというほど表情は歪んでいた。
でも俺は気づかないふりをする。ミハは気づいていても何も言わないだろうし、まず気づいていないだろう。だからプリンセスは気づかれていないと思っているのだろうか。
プリンセスは逃げ出そうとした。俺から。できるわけないのに俺が酔いつぶれているうちに逃げ出そうとした。もちろん逃げ出す前に捕まえたが…逃がしてやったほうがよかったのかもしれない。
俺は試したんだ。プリンセスが逃げるかどうかを。俺もミハも酔いつぶれてしまえばプリンセスが逃げ出すための障害はない。逃げたいと思うなら今夜ほどのチャンスはないはずだった。
…予想通りプリンセスは逃げ出そうとした。
予想していたはずだった。プリンセスが逃げ出すことはあきらかだったはずだ。…それじゃあ、俺は何に驚いたんだ?
いや、本当は知っていた。プリンセスが泣きそうな顔を浮かべるのは決まって俺がプリンセスとアリシアを重ねたときだ。誰だって自分と他人を重ねられるのは嫌だが、それだけじゃないはずだ。だがそんなことはあってはならない。俺はアリシアを愛しているんだ。プリンセスを通してアリシアを見てはいけない。
…違う。『アリシア』が見れなくなった。初めは重なっていたアイツの姿が今はプリンセスに隠れてしまっている。今、アリシアに会ったならその姿にプリンセスを重ねてしまうのだろうか。
それがいいことなのかどうか俺にはわからない。
「マイセン…」
はっと振り返るもプリンセスは眠ったままだ。ただの寝言にここまで驚くとは、よっぽど考えに集中していたらしい。
顔にかかった髪をよけ頬に手を伸ばす。口づけるほど近く身を寄せ、結局何もせずに離れる。
ーーー俺にはわからない。この気持ちが何なのか。
ただ一つだけわかることは。
「不幸にはなるなよ、プリンセス。」
泣かないでいてほしいと思う。



09/3/20

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