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代わりにしかなれない(マイアイ)

「よっ、プリンセス!」
「げっ…」
驚いた。なんでここにいるんだこいつは。さっきまで酒場で酔いつぶれてあたはずだ。
「こんな時間にどこ行く気だ〜?夜の一人歩きは危ないぜ。」
肩に回された腕にぴくりと体が動く。
…ばれている。私が夜逃げしようとしていたことに気づいているくせに、何も言わない。まだ酔っているように上機嫌に振る舞う。それは怒鳴られあからさまに怒られるより余計に怖い。
「あんたこそ危ないわよ。酔っ払いは大人しく寝ときなさいよ。」
さりげなく腕から逃れようとするが、逆に拘束は強くなる。
ーー逃げられない。
あの25日間で鍛えた感覚がそう告げる。殺気にも似たその執着は今にも私を絞め殺そうとしているようだ。
…やめて。私を代わりにしないで。私はあんたが、
「離して。…宿に戻るわ。」
気づいていた。随分と昔に。私はあんたを思ってる。あんたが妹と重ねて見ていると知っていても、いつの間にかその瞳に捕らえられてしまった。
「んじゃ、戻るか。」
離れた腕を離さないでほしいと思ってしまうのは、この恋がもう消せないものだと示しているようだ。もう、戻れないのだろうか。
くるりと背をむけたマイセンを黙って見つめる。引き止めたいくせにすぐに拘束を緩めるのは、本当に「私」を求められているわけではないと決定づけられているようだ。
今だけは振り向かないでほしい。きっと今の私はとても醜い顔をしているから。


09/3/20

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あきゅろす。
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