熱い涙(ウ゛ォ+ヘン) *ヤーコプルート分岐 立ち止まってしまえば終わることもできない。悪夢を終わらせることが兄さんのためになるとしても、どうしても私にはできなかった。そして終わることを拒絶した私に残されたのは救いのない鳥かごの生活。 「気分はどうだ?楽園の乙女よ」 「最悪よ。ここって何もないんだもの。退屈で死んでしまいそうだわ」 「死んでしまいそう?ははっ。そんなこと俺が許すとでも思うのか。お前はこの鳥かごで一生絶望に浸るのだからな」 「……絶望なんて、しないわ」 兄さんを救うために私は諦めたりしない。けれど一人でどうやって兄さんを救えばいいのだろう。 「時期に堕ちる。その時こそ女神は真に俺のものになるのだ……!」 「ヴォーダン!あなたは……」 あなたは女神を愛しているんじゃないの?そうじゃないとこんなに執着する意味がわからない。 「あなたは、女神のことを恨んでいるの?」 けれど口にしたのは別のことだった。 「恨んでなどない。ただ腹ただしいだけだ」 「なら、愛してるの?」 「愛して?はははっ。馬鹿なことを。私とあやつの間にそのようなものはもうない」 <もう>ない。つまりヴォーダンは女神と親しかったのだろうか。それがどうしてこんなことに? 「女神ブリュンヒルデは人間側についた。あの瞬間から我らは永遠に決別したのだからな」 「たったそれだけのことでなの?自分の意見に賛成されなかったからって何もこんなことをする必要はないじゃない!!そんなのブリュンヒルデが可哀想だわ!」 好きな人の意見を否定するのには勇気がいる。嫌われてしまうかもしれないって気持ちを抑えて正しいことを諭すのって難しい。それなのにヴォーダンは全然わかっていない。 「可哀想?裏切られた俺よりか」 「逆よ。あなたがブリュンヒルデを裏切ったのよ」 「何?」 「あなたを大切に思う気持ちを裏切って勝手に悪者扱いして……そんなの、つらいに決まっているじゃない」 仲間を裏切った時のことを思い出した。胸が痛くて、痛くて。でも私が正しいと思ったことを貫くためには仕方なくて。きっとブリュンヒルデだって同じだったはずだから。 「ねえ、ヴォーダン。もう止めにしましょう?」 もう仲直りしたっていいはずだ。だってずっとヴォーダンだって苦しかったはずだから。 「あなたを想う人はいるわ。だから、もうこんなこと止めましょう……?」 「俺は……」 苦し気に表情を歪めたヴォーダン。後一押しできっと元に戻る。そう思って口を開きかけた瞬間―― 「あっ……」 「俺はお前の妄言に惑わされたりしない。百年の絶望を味わわせてやるつもりだったが、気が変わった。永遠の眠りにつけ」 胸から何か温かいものが流れ出す。これは私の血?いや、涙かもしれない。兄さんを救えなかったことを悔いる血の涙――。 10/9/14 [*前へ][次へ#] |