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エリカの少女(ルトヘン)
*ルートヴィッヒend後

「……できた」
 そう言ってルートヴィッヒは筆を置いた。随分と時間をかけて描いたらしく、初めに出した絵の具はしっかり固まってしまっている。
 ルートヴィッヒ・グリムは利き手の自由がきかない。それでも時間をかけて少しずつ絵を描けるまでになった。以前のように繊細で滑らかな表現は出来なくなったが、その代わりに長い時間をかけた想いのこもった作品を描いた。
「ルートヴィッヒ!またここにいたの?」
 エリカの花が咲き乱れる中をルートヴィッヒの従妹のヘンリエッタ・グリムが駆けてくる。手にはバスケットを持っていることからして、一緒にお茶をしようと言いに来たのだろう。
「きりがよくなったらお茶にしない?スコーンを焼いてみたの」
「ちょうど描き終えたから片付けるまで待っててくれるか」
「描き終えたの?もう見てもいいのね!」
 ルートヴィッヒが出来立ての絵を見せるためその場から立ち上がった。そのまま渡してもよかったのだが、おっちょこちょいのヘンリエッタが誤って触ってしまわないようにイーゼルに立てたまま見せることにした。
「これって、私よね?綺麗……」
 まるで自分じゃないみたいという言葉を飲み込む。それくらいルートヴィッヒの描いた絵は素晴らしいものだった。エリカの花に囲まれたヘンリエッタの絵。まるでその場面をたった今見ていたような鮮やかさと、優しく包み込むような想い。絵に詳しくないヘンリエッタでもこの絵が素晴らしいものだということはわかった。
「私を描いているなら言ってくれたっていいのに。完成するまで見せないって言うから何を描いているのかと思ったわ!」
「お前を描いてるから言いたくなかったんだよ。どうせお前をモデルにしても不自然な格好になるか、すぐに動き回るだろうからな」
「もう!そんなことないわよ」
「……それに。見なくたってお前のことを思い浮かべることは出来るし」
「へ?」
「なんでもない。――さ、お茶が冷めない内に片付けないと」
「ちょっ、ちょっと……!今なんて言ったの?ねえったら!」
 そっぽを向いたルートヴィッヒの耳が赤かったようにヘンリエッタの頬もほんのり色づいていた。それは小さな幸せがある、優しい午後の話。




10/9/13

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