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(理撫)繋いだ手の確かさを
*その瞳には映らないED後

「おい無事か、撫子!――って、ぴんぴんしてるじゃないか」
「大げさよ理一郎。もしかして心配してくれたの」
 珍しく私のことを気にかけてくれたのだと思うと頬が緩む。それが気に入らなかったらしく頬をぴんと弾かれた。
「馬鹿か。おまえの親父さんに怒られるんだよ。自分がいけない時はオレが守れって」
「父様が?母様か家政婦さんに頼まれたのかしら」
「なんでそうなるんだ。いい加減親馬鹿だって気付いてもいいだろ」
「それは理一郎の勘違いよ」
 いつものようなやり取りに自然と肩の力が抜けた。理一郎の顔を見るまでは震えていたことも忘れそうだった。
「で。検査受けて問題なかったんだろ。いつまでここにいるんだよ」
「それが――」
 フラッシュバック。赤い液体、必死な声、誰かの名前、男の人の安心したような目。手の震えを見られないように鞄の下で握りしめた。
「交通事故に遭ったって連絡がいってるのよね。実際には遭いそうになったところを助けてもらったの。その男性が重症で、もう何時間も手術室から出てこないわ」
 実際には一時間くらいしか経っていないのかもしれないが、重苦しい空気と罪悪がより時間を長く感じさせている。時計を見るためにその場を離れることも出来なくて、消えない映像を振り切ろうと必死だった。
「……その男の名前とかは?家族とかに連絡はいってるのか?」
「家族に連絡は出来ていないんだけど……恋人らしい女の人が一緒にいたわ」
「その人はどこだ?おまえがここにいるのにいないってことはないだろ」
「理一郎と入れ違いに出ていったわよ。……一人になりたかったのかもしれないわ」
 今みたいに私と理一郎が話していたらお姉さんは不謹慎だと思っただろう。それとも私を助けたことで恋人が重体になのだから、恨んで一緒にいたくなかったのだろうか。
 どちらにしても私に出来ることは無事に手術が終わることを祈るしかない。
「……助かるといいな」
「助かるわよ。だって理一郎と同じ【リイチロウ】って名前なのよ?きっとあなたみたいにしぶとく生き延びるわよ」
「しぶとくって何だよ。今の状況で同じ名前とか縁起悪いだろ」
 確かにもしも理一郎が事故に遭っていたらと思うとぞっとする。
 見ず知らずの女の子を助けて生死をさ迷うなんてこと理一郎がするとは思えないが、私を助けるためならどうだろう。なんだかんだ言いながらも肝心な場面では助けてくれる理一郎だ。とっさに助けてしまうかもしれない。そして二度と目覚めない。
 他人事だと思っていたから震えるだけでいられたのだ。もしも大切な人だったらと思うと、――きっと何もわからなくなる。
「不謹慎だけど、思っちゃいけないことだってわかってるけど、私の理一郎じゃなくてよかった」
「私のって、おまえな……」
「私の大切な幼馴染みを失うなんて考えられないもの。――きっとあのお姉さんにとっての理一郎もそうなんだと思うわ。失うなんて考えたくないの」
 もしかすると勝手に決めつけていただけで、【リイチロウ】とあのお姉さんは恋人ではないのかもしれない。家族や私達のような幼馴染みかもしれない。それなら尚更見ず知らずの誰かのために奪われたくはないだろう。
「……オレも。悪いとは思っても、おまえがいなくなるよりはいいと思った。助かるといいな、ほんと」
「ええ」
 もしこの世界に神様がいるとして人の願いを叶えるなら、こんなずるい私達の願いを聞き届けはしないだろう。
 それでもどうか、あの人達の手を離さないでほしい。


【繋いだ手の確かさを確かめた】
(いつの間にか、理一郎の手を離れないようにと握りしめていた)



12/3/31




あとがき
 はじめましての方もそうでない方も読んでいただきありがとうございました。
 なぜ悲恋ED後を選んだかというと、ずっと隣でというテーマに一番合致したからなのですが、幸せから遠くて申し訳ない。
 辛いことや悲しいことがあってこそ絆は深まる。それなら、今隣に当たり前にいる誰かを失っていたかもしれないと目の当たりにしたら。
 さて、恋に進展するのかしないのか。鷹斗と理一郎の間で揺れても、最後には幼馴染みの手をぎゅっと握ればいいと思います。
 最後に。素敵な企画に参加させていただきありがとうございました(深礼)


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