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君と、トラベリング!


「思ったよりシンプルなんですね」

「部屋まであんなにギラギラしてたら寝れないよ」

ため息を付きながら、バッグを放り出してベッドに腰掛けた。そのまま寝転がる雲雀を抱き起こして、スーツを脱がせる。皺になるでしょうと良いながらそれをハンガーに掛ける骸に「世話焼き」と呟くが、当たり前のことですと笑われた。

「明日から」

「はい?」

「…どこに行こうか」

「そうですねぇ…遠くならどこへでも、ですかね」

心配ですかと、骸は雲雀の頭を撫でる。首を振って否定するが、やはりその顔はどこか不安そうだ。安心させてやりたくて、白い頬を包むように手を添える。上げさせた顔はいつも通り切れ長の目に短い前髪。それでも何故か、10年前の幼い彼と同じく見えた。

「大丈夫ですよ」

「…でも、」

「僕達が逃げられないわけないでしょう?」

「でも、君をまた罪人にした」

せっかく出て来たのに、と雲雀は俯く。骸が復讐者の牢獄から脱獄し、ミルフィオーレを退けた過去のボンゴレファミリーが去ってから、そう日は経っていない。生身の彼を、未熟で小さな子供のままの自分に先に見せてしまったのは少し悔しかったが、入江の装置から出されたあとに感じた温もりはたしかに10年間求め続けたもので。作り物の体温に切なさを覚えることもない、タイムリミットのない日々に期待をしていた。

「ごめんね」

「恭弥…」

「これは僕のわがままだ」

正当性を問われる出所の後始末と復讐者からの追求。危険人物として受ける規制や質問、そのくせ任務だなんだと利用はするボンゴレに、先に嫌気が差したのは雲雀だった。別にかまいませんよと笑いながら質問を受ける本人を、沢田の部屋から引きずり出したこともある。結局は、これ以上骸を自分の隣から奪われたくなかったのだ。一度大金を手に入れた人間が普通の暮らしに戻るのを拒むのと同じ、今までの自分がくだらないと鼻で笑っていたような人間に成り下がってしまった。

「僕は嬉しいですよ。恭弥が僕を選んでくれたのですから」

「でも…」

「でも、でも…なんて、恭弥らしくない。いつもみたいに僕を馬鹿にするくらいでいてくれないと」

そんなところも好きですけど、と髪を梳かれる。骸はいつもこうやって自分を甘やかすから、分からなくなるのだ。以前も、沢田に「相手のどこが好きか」と聞かれれたとき、自分はしばらく考え込んでしまったのに、隣に立った骸は「全部」と即答していた。昔よりずっと臆病になってしまった自分は、彼の言う「全部」が本当に「雲雀恭弥の全部」なのか、本当にこんな天の邪鬼で臆病で弱い自分の全部を愛してくれているのか、不安になってしまう。

「クフフ…僕は好きですよ逃亡生活、スリルがある」

「…うん…」

「それに今度は恭弥も罪人です。君とずっと二人きりで…なんて、楽しみでしょうがない」

「…本当に?」

「はい」

「本当に、本当に僕と逃げて楽しいの?」

「恭弥がいればね」

いい加減、僕の言葉をそのまま受け入れて下さい。そう優しく抱き締められても、不安は少ししか削れない。それでも、雲雀を包む腕の熱がシャツ越しに伝わって、今本当に二人の人間が触れあっているのだと実感できた。すり寄った胸はやっぱり暖かくて、一晩こうしていても骸はどこにも行かない。

「僕は」

「はい」

「…海の見えるところに、行きたいな」

「クフフ、わかりました」

さっきの会話をまだ引っぱり出しても、すぐに笑ってくれる。優しく髪を梳く手は待ち焦がれていた甘さであるはずなのに、今はそれが気恥ずかしくて雲雀は腕をすり抜けた。その瞬間にひやりと温度を下げる体にさえ骸を意識してしまう。当の本人は、赤くなった雲雀のすべてを見抜いているかのように、ニヤニヤと笑っていた。

「おやおや、恥ずかしがらなくてもいいのに」

「…風呂っ」

「一緒に入りますか」

「…好きにすれば…!」

着替えを抱えてバスルームに駆け込んだ雲雀の背中に、骸はついに声を出して笑ってしまう。昔の彼なら一緒の入浴を提案した瞬間に人外のものを見るような目でこちらを睨んできたのに。きっとそわそわしながらシャワーを浴びているであろう彼の期待を裏切ってはいけないと、骸もネクタイを解く。風邪をひきやすい雲雀のために薄く開いた窓を閉め、カーテンに手をかけたところで、骸は向こうに見えたものに声を上げた。

「朝まで秘密にしておきましょうか」

あがる頃にはそれどころじゃないだろうと呟いて、自分もバスルームに向かう。ドアの音に気付いた雲雀がシャワーの音に暴言を織り交ぜてくるが、骸は気にせず服を脱いだ。これからは、任務に引き裂かれることも、幻覚を保たせられない自分を嘆くことも、雲雀に寂しい思いをさせることもないのだ。それなら存分に甘やかしてやろう。これからの二人の旅に、骸は胸を踊らせた。

travering
旅は今、始まった。


(骸、ねえ、起きて)
(ん…どうしましたか)
(ほら見て、海がある!)
(クフフ、良かったですね)


end

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あとがき.

未来編後の二人。
こんな無駄なシリアスさと無駄な愛の逃避行が大好きです(笑)
「やばい逃避行の理由考えてないわ」とか焦りながら書きました。

もちろんこの後はお風呂でもベッドでもry
10年待ち続けた雲雀さんは、これからずっと甘やかされて、骸さんの愛を受け止めて生きてくんだと思います。血まみれの逃亡劇繰り広げていきます。続けたかったけど、気力と需要を考えてここで終了。

一番の被害者は発信器つけられたサラリーマン(笑)
二人がベッドで仲良ししてる間に、彼の家には殺気立った獄寺君が乗り込んでるんだ…。

・イメージソング
travering/宇多田ヒカル
2012/04/08


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あきゅろす。
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