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落乱
仙文:脱衣場の対話
ついったからお題



 文次郎が夜間鍛錬を終えて風呂へ向かうと、脱衣場に灯りがついていた。

 遅い時間であるので、上級生だろうと思いつつ中に入ると、来たばかりらしく上着を脱ぎかけた同室者、仙蔵の姿があった。

「なんだ文次郎、今日は早いな」
「鍛錬を始めたのが早くてな。お前こそ、随分遅いだろう」
「委員会の調べものがあったんだ。兵太夫が新しい絡繰りを作りたいと言うのでな」

 仕方ない、という顔で笑う仙蔵に、こいつも何だかんだで先輩をやっているんだと思い、何となくくすぐったい気分になる。
 誤魔化すように装束を脱いで籠に押し込むと、同じく脱ぎ終えた仙蔵が文次郎を見つめていた。

「……なんだ、じろじろと」
「ああ、いや、よく生きているものだと思ってな」

 仙蔵の言葉に疑問を持ちながら己の体を見て、文次郎はああ、と納得した。
 確かに自分の体はあちこち古傷だらけで、大きいものも幾つかある。
 しかしそんな仙蔵の体とて、自分と大差無いほどの物だ。

「こんなもん、お前だって人の事は言えないだろうが」
「まあ、確かにな」

 お互いの歩いて来た、そして歩いて行く道を見せつけるようなそれに、どちらからともなく苦笑が零れた。

 ふと、下ろされた仙蔵の髪に目をやると、火薬の扱いでもしくじったのか、少しよれている場所がある。

「焦げたか、珍しい」

 言いながら一房手に取ると、ばつの悪そうな顔で視線を逸らす。
 普段完璧を気取る仙蔵は、滅多に失敗や弱みを見せたりはしない。
 稀に自分だけが気が付くとき、文次郎は目の前の男が随分と可愛らしく見える。

 手にとっていた一房の髪に軽く口付けると、仙蔵は呆気にとられた顔をした後、俯いてみるみる赤くなっていく。
 いつもは気障な台詞を簡単に言ってのける癖に、この手の不意打ちにはなかなか弱いのだ。

 しかしここから落ち着いた後の仙蔵が些か恐ろしいのもまた文次郎にはよく分かってしまっているため、仙蔵を置いてそそくさと湯に向かったのだった。


   熱いのは湯船だけで十分です。
  (まあ、無理だけど)



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