創作 にらめっこしましょ 三階の一番端の空き教室は、昼休みの間は滅多に人が来ない。 陽当たりの良い教室の中は、物がほとんど無い所為か開放感があって結構好きだ。 机一つと椅子二脚だけ窓際に置いて、俺と幼馴染みは大体ここで昼飯を食っている。 「お、そろそろ時間」 携帯を弄っていた幼馴染みが、徐に立ち上がって窓に向かい、気合いを入れる。 それに合わせて、開け放たれた窓と幼馴染みに、ムービーを起動したスマホのレンズを向ける。 「にーらめっこしーましょ、わーらうーとまーけよー」 爽やかに晴れた空、清々しくそよぐ風。 絵に描いたような初夏の昼。 窓の外を、黒い人影が落ちていく。 「あっぷっぷ!」 ピロン、ムービー撮影終了の、ちょっとだけ間抜けな音が室内に転がった。 「どーだった?」 「今回も良い感じじゃね?」 ウキウキと近寄ってくる幼馴染みと一緒に、スマホの画面を覗きこむ。 さっき撮ったムービーを、スロー再生して一時停止。 「おー! すげえクオリティ!」 「やべーどっちも飛ばしすぎ!」 後ろから回した手で眉間を摘まみ、白目を剥いて頬と小鼻を膨らませた幼馴染みと、両手を使い頬を寄せ、目を瞑り唇をすぼませ、限界まで顔を真ん中にギュッと寄せた男子生徒(逆さま)。 どっちも結構整った顔してんのに、見る影も無い。 三階の一番端の空き教室は、昼休みの間は滅多に人が来ない。 その時間、その教室の窓で、随分昔に屋上から飛び降りた生徒と、視線が合うから。 「……卒業までに一回は屋上行きたいよな」 いつもの無表情に戻った幼馴染みが、雑誌を捲りながら呟いた。 うちの学校の屋上の扉には鎖と南京錠が付けられていて、厳重に立入禁止になっている。 「ネットで分からんかな、鍵の開け方」 「んー……任した」 「お前の方が器用だろ!」 だらだらと喋りながら、昼休みを使い潰す。 開いたままの窓からは、夏の緑の匂いが、風に乗って届いている。 にらめっこしましょ [*前へ][次へ#] [戻る] |