創作 見ちゃった . 自宅でだらだらと過ごす休日、俺の視線はすぐそばで開け放たれている窓の向こうに釘付けだった。 あまりにも食い入るように見ているので、隣に居た幼馴染みが声をかけてきた。 「フミ、なにしてんの」 訝しげな声に、彼がいる場所からは角度的に俺が見ているものが見えないのだ、と気が付いて、無言で窓の外を指差した。 指し示した場所には、豊かに咲き誇った紫陽花がある。 そして、その紫陽花の葉っぱの上に居る、かなり大きい、かたつむり。 「かたつむり」 「うん、かたつむり」 ちょっと引くくらいの大きさのかたつむりが、紫陽花の葉っぱを、もりもりむしゃむしゃ、凄い勢いで食べていた。 息を潜めてじっとしていると、しゃりしゃりと咀嚼する音すら聞こえてくる。 「紫陽花ってさ」 「うん」 「毒、あるよな」 「うん」 「花びらはともかく、葉はそうそう食べないって、おれ聞いたことあるよ」 「うん、俺も」 二人分の視線の先には、猛然と葉っぱを食する姿。 果てしなく、気になる。 そういう種類のものなのか、外来種か在来種なのか、捕まえて調べることは可能だろうか。 不意に、忙しなく動いていたかたつむりが、ぴたりと止まった。 食べ終わったのかと、意を決して手を伸ばそうと窓枠に手をかける。 ――ギシャアアァァァッ!―― あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! 『かたつむりが凄いスピードで振り返ったと思ったら半端ない迫力で威嚇された』 な… 何を言ってるのか わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった… 頭がどうにかなりそうだった… 目の錯覚だとか幻聴だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ… 「……聞いた?」 「……聞いた。ギシャー言った。……見た?」 「……見た。オニイソメみたいだった」 気だるげな無表情が常の幼馴染みが、猫目をまん丸くしている。 俺も多分、同じような顔をしているんだろう。 紫陽花の方を見ないようにして、そっと窓を閉める。 カーテンもしっかりと閉めてしまって、幼馴染みと顔を見合わせ、こっくりと頷きあった。 「見なかったことにしよう!」 「そうだね!」 見ちゃった ……翌日、洗濯物を干しに庭に出ると、一メートルほど自生している紫陽花は、半分近く葉っぱが無くなっていた。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |