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創作



「最近さ、青い物増えたよね」

俺の対面であんかけ焼きそばを啜っていた男がぽつりと言った。
さっきから食いながらきょろきょろとしていたのは家の中の青い物を探していたからだろうか。

「別に、気のせいじゃない?」

俺は対面の男と視線を合わせないようにあんかけ焼きそばを食べる事に専念する。
視線を合わせてしまえば、俺の感情などすっ飛ばして自分が欲しい答えを掠め取って行きやがるからだ。
大体この対面で俺を見つめ続ける男は、酷く底意地が悪い。
普段はきらきらとした美少年で、誰にでも優しく品行方正であるのに、人目が無いのを確認すると、一気に豹変するのだ。
優しげな微笑みには影と毒が滲み、俺に向けられる視線には明らかな見下しの色が出る。
本人はそんな事は無いと言うが、その声色に既に小馬鹿にした雰囲気がある。
まあ俺が容姿やら処世術やらが随分男に劣っているせいでもあるのかもしれないが。
それでも何度かぶん殴ってやろうかと思ったが、筋力にすら差があるので迂闊に逆らえない。

「前はさあ、赤とかモノクロばっかりだったよね?」

いつの間にかあんかけ焼きそばを片付けていた男は、また部屋の観察をしていた。
他人の家をじろじろと見回すのはマナー的にどうなんだ。まあそんな事を気にする性格では無いのだろうが。

「今まで気にしてなかっただけじゃないの。ちょっと模様替えしたし」

麺と反比例して皿に残っているあんをイカで寄せながらひたすら皿を見つめる。
目は合わせない。意地でも。

確かに青は増えた。
基本的に俺が好むのは赤やモノクロセピアカラーで、今まで家には殆ど青は無かった。
まあ増えた、というより増やした、と言った方が正しいんだろうが。
ただ単に嗜好の変化で増やしたのならば逃げはしない。変化の根底にあるものが問題なのだ。

青は男の色で、だから増やしているから。

特別男が青に執着しているという訳ではなく、俺の中だけの偏見のような物なのだが、それを差し引いてもこの男には青が似合うと思う。
特に、空の青さが。
時間や気候によってがらりと表情を変える様も、多面的なそれと当てはまる。気がする。

「アクセサリーにも青い石増えたよ。今のピアスも」

最後の砦、ウズラの玉子も食べ終わり、なるだけゆっくりと皿を洗う俺の背に、思いの外近くから声がかかる。
それと同時に右耳元の髪が掻き上げられ、耳に指が触れる。
身を捩って逃げようとするが、左側からしっかりと腕が回っていてろくに動けない。いちいち行動が嫌味なんだよ畜生。

「青も似合ってるけど、やっぱりカヤちゃんには赤が良いと思うなあ」
青が似合わないのは分かっているが、人の耳を弄びながら言うことじゃねぇだろう。

「……っ……いい加減っはなっせ……よ……!」

死ぬ気で金的でもしてやろうかこの野郎。

「なーんか赤ってさ、カヤちゃんの色って感じがするんだよね」

くすくすと含み笑いをしながら離れて言う。
もうとっくに洗い物は終わったけれど、何故か動けない。
赤が俺の色って……。好んではいるけど、似合っているんだろうか?
自分の色なんて考えた事なんて無かった。


もしも、もしも俺の色が赤なら。
夕暮れ時、僅かに差し入る茜色程に、男の青に赤は、入るだろうか。

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あきゅろす。
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