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#01 御降



例えばセンパイが、例えばマウンド以外では相当に不器用な自覚のある僕の――


「センパイ、手、」
「ん?どした?」


困ったように笑うセンパイの困った顔には気付かないフリをして。見つめる視線に行き場を戸惑うその手をそっと掬い上げる。


「…やっぱり、かっこいい。」
「手が?」
「はい。」


一年も違うこの甲に平に頼れるその大きさに、一年の遠さを憧れては時々泣きそうになってるなんて。センパイはたぶん、知らない。
落ち着いた捕手の大きさは、僕だけを見つめるはずの、はずだったこの掌は。


「好きです。」


例えばセンパイが、例えばマウンド以外では相当に不器用な自覚のある僕の、例えばこの腕を引っ張って、例えばセンパイと僕しか居ない二人だけの世界へ連れて行ってくれると言ったなら。


「手が? それとも俺が?」
「…相変わらず、センパイは意地悪ですね。」


例えばそう言ってくれたとして、僕はきっと頷かない。だって――


「手が、です。」


だってこの手は、自分だって器用じゃないくせに、僕を引っ張って僕に仲間を教えてくれた大きな手だから。





#01 御降
例えばの掌


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